カゼキリ風来帖 プロローグ

練習がてらに書いているオリジナルの小説です。
こちらは短編集なので、月一作完成を目処にしています。
まぁ、興味のある人だけどうぞ。



風のらせん。
ビュウビュウと渦を巻くように風の流れる渓谷がある。
そこは今日まで、いくつもの人間の魂を吸い込んできたことで知られる……
所謂、自殺の名所と言える場所であった。

今日もまた、そこへ一人の人間がやってきた訳だが――
「…………あぁ」
その人間、名前は野崎あやかという。
見た所、特に然したるところのない普通の少女である彼女だが、よく見てみるとその様子は何だか物憂げだといえないこともない。
「ううっ」
と、少女が風に揺られた。渓谷を駆け抜ける風が一層に強くなったのだ。
少女の存在が風の流れを遮る――この渓谷を吹き抜ける<風>にとって、これほど不快なものはない。
それは川の流れを大岩を使って塞き止めたと考えてみるのが良いだろう。行き場を失った水は四方八方へ激しく散らざるを得ない――水にとっては本当に迷惑な話である。
それはさておき、
一思いに吹き飛ばしてしまおうか、そう<風>が思ったときであった。

「風さん……」
不意に少女が声を発した。<風>は思わずぴたりと止まる。
「私は、もう生きるのが辛くなりました。人というものが信じられない……そう、私は弱い」
それを聞くな否や、風は再びざわめきたった。
このような人間の戯言は、今まで、この渓谷へやってきた人間の殆どが吐いてきた弱音だ。

人間は弱い……それは確かなこと。吹いてしまえば紙のように吹き飛ぶ。今までの人間達など正にそれであった。
この人間の少女も吹けば軽く飛ぶだろう。そして、<風>となるのである。
<風>は呪いの言葉を口にする。これはせめてもの情けである。ここで消えた魂が不浄のもの……つまりは<浪霊>とならないようにする為の言葉。
ビュウウ、と、まるで歌っているかのような音を立てて、大きく横風が吹いた。
風が少女の肩まである黒い髪を揺らし、ついにその身体がふらりと傾いた。

さぁ、人の子よ。汝の時は今に終わる。新しい時が始まる。

激流のような強い風が、少女の身体を前へ前へと押し流していく……。
そしてあっという間のこと、少女の姿は見えなくなった。


それを見届けると、<風>は静かに吹き止んだ。
何事もなかったかのように静かである。もう少女ここにはいない。
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by metal-animal | 2010-03-29 20:48 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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