カゼキリ風来帖  ~ 八霊名水の章 その1

オリジナル小説です。
ちょっと前に流したプロローグの続きです。
興味のある人だけどうぞ。



短く黒い髪が風に乗りさらさらと流れるようになびく。
「はい。今日は侵入者の人間を3人、殺してきました」
そう言ったのは風切あやか。歳にして16歳程度の少女である。
髪に隠れて良くは見えないが、その額にははちがねの銀色が輝いている。
その風切あやかが顔を上げると、そこにはもう少し年上だろうか・・・
それでも十分に凜とした顔つきをした少女がいるのが見える。
「今日もご苦労様です。風切のあやか」
ビュウウと風が通り過ぎる。
ここは八霊山にしてその頂上付近である。
周りには人影のような木々がひしめきあってはいるものの、本当の人影というのは、この風切あやかともう一人の少女の他にはない。

さて……

もう一人の少女は、名前を高山はるかという。
高山はるかと風切あやか、この二人はこの八霊山を外からの脅威から守る<護山家>という
組織に属しており、人間社会で言うところの上司と部下の関係にある。
元より、高山はるかは護山家の一人であったが、やんごとなき理由で風切あやかを自分の下へと引き入れた経緯がある。それについては、護山家について等々後々の話で分かることなので、今は多くは語らないこととする。

「風切のあやか。私は常々思っているのですが、今日はそれを聞いても宜しいですか?」
「はい。何でしょうか?」
高山はるかは無表情のまま風切あやかを見た。目は大きくぱっちりとしているものの、
その眼には鋭い光が浮かんでいる。
「私はあなたを山の者へと変えた。今日に至るまで護山家として侵入する脅威、その全ての殺害を命じてきた訳だが……」
高山はるかは言葉を止める。一度、木々の間から見える風景を覗くと、再び視線を戻した。
「それをあなたはどう思う?同じ種族であった人間を殺すことに何を覚える?私はそれを聞きたい」
風切あやかは澄ましている。顔色には何の変化もない。それが一度目を閉じると、
「私は……」
赤い瞳を炎のように滾らせ、
「私は、それに喜びを感じています。この八霊山に来る人間どもは全て、この山にあるという宝物を目当てにしています。そんな汚い……人間を潰すこと……それに私は無上の喜びを感じるのです」
「そうか」
風切あやかの口調は静かで淡々としていて、その陰には不気味なものが潜んでいるのが、
高山はるかには十分に見えていた。しかし、高山はるかに驚きは微塵もない。

そもそも風切あやかは人間を嫌っている……というより、人間を憎んでいる。
それは風切あやか、もとい野崎あやかを高山はるかが拾った時に感じたことだ。
人間としての野崎あやかを捨てさせたとき、むらむらと憎悪が煙のように立ち上ったのを
今でも昨日のことのように覚えている。あれはとても面白かった。
ただ、一体何が彼女をそうさせているのかは知らないし詮索することもしない。
高山はるかは気まぐれに野崎あやかに山の力を与え、護山家へと導いたのだ。
それ以外のことに関しては特に何もしていない。してやるつもりもないのだが、
当の風切あやかとなった野崎あやかも従順に付き従ってくれている。
決して口には出さないが、一応は懐いているらしい……と見ると、高山はるかは何処か嬉しい思いがあった。

さて、話変わり……

「あぁ、そうです。昼頃に 水精のれい が来ました。ひどくあなたに会いたがっていました。何時もの川辺で待っているそうです」
そう言うと、高山はるかは腰元へ下げた水筒へと手を伸ばした。
灰色の、石を削って作られた水筒は、意外にも整った形をしている。
「また、れいは八霊の水を置いていったのですね」
「はい。彼女達、水の精は山の者にしきりに水を勧めます。まぁ、不味くはないし、悪いものではないのですがね……どうも不思議なものですよ」
ぽん、と水筒の蓋を取ると高山はるかは、こくこくと静かに八霊の水を飲み始めた。
その様子を風切あやかが見ると、
「それでは、私はれいの所へ行ってきます。今日の人間どもの死体は、また山陰奈落へと棄てておきますので」
「……はい」
高山はるかは水筒を口から話すと、青い青い空を見ていた。
風切あやかはその場で疾風がごとく消えた。
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by metal-animal | 2010-04-03 00:31 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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