カゼキリ風来帖 ~ 八霊名水の章 その2

左から右へ流すつもりだったけどどうにも間隔が開いてしまい、
不親切だったのでタグ付けしてみたり。
オリジナルの小説です。興味のある人だけどうぞ。



八霊山の中腹には山水の集まる湖がある。
その湖の水の奇麗なこと、透き通るように蒼く、涼しげに輝いていること。
そして、その湖の近くの川縁に一人の精霊が腰をかけていた。
水の精霊が一人、蒼水れいである。

彼女はこうして、いつも川縁に佇んでいる。誰もがいつ見ても川縁にいる。だから、八霊山に住む何者もが彼女の事を余り知らない。
知っているとすれば……水の精霊の頂点に位置する御方であろうか……
しかしその御方についてはそれこそ知るものがいない。だから水の精霊については誰も良く知らないのだ。まぁ、もともと精霊とはそういうものだ。

さて……

その蒼水れいは風切あやかの姿を見るや立ち上がり手を振った。
「おお、来たねぇ来たねぇ!待っていましたよ」
霧のように白い肌、水色の髪、そしてこの笑顔である。
「相変わらず色が白い。少しは太陽の光にでも当たったらどうだ」
蒼水れいの白さには常々目がつく風切あやか。今日も挨拶代わりにそれを言ってやる。
「ははっ、川の水が汚れぬ限りは私の肌も白いままよ。もっとも、川を汚す輩は私が殺し奈落へ放り込む。私の肌が焼けるはずがない」
青い水面に映る自分の顔を見ながら蒼水れいは笑う。
何処か冷たい笑顔である。
風切りあやかは、そんな彼女に心に小さく恐怖を感じることもあった。
それは蒼水れいの攻撃対象は自分と違って無差別であるということ。
風切あやかの攻撃対象は、主に山に侵入する外敵や脅威に限られている。
その一方で、蒼水れいはというと……
「水を汚すものは水に落ちねえ」
という。
つまり、川を汚すならば誰であっても手に掛けるということなのだ。風切あやかとて例外ではない。
蒼水れいが笑う。


「それで今日は私に何の用だ。また水を勧めるつもりなのか」
風切あやかは、すっと向かいに腰を下ろす。
恐怖こそはあっても川を汚しさえしなければ何の脅威もないのだ。
「ああ、そうだね。今日は一体何人の人間を殺したんだい?」
「3人だ」
「おぉ、それはそれは……。流石、働き者のあやかちゃんだあねぇ。たまには一人くらい見逃しておやりよ。そうすれば、この八霊名水の素晴らしさ、人間共にも伝わるものなのだが」
くっくっくと例の笑顔である。

ふん……

風切あやかはこれを無視して川の流れに目をやった。そして言った。
「そんなことをしてみろ。汚い人間のことだ、一気に侵入してきて、山や川を徹底的に汚すぞ」
「おお、怖いねぇ怖いねぇ」
怖いのはどちらだろうか。
「でもさ……そんな人間でも、八霊名水を飲めばきっと奇麗になるはずだよ。なんせ私が育てた八霊名水だ。心身共に洗われないはずがない」

「水にそんな力があるものか」
さっと風切あやかは言い捨てた。そして、

「人間はとても汚い生き物だ。それは後にも先にも同じこと。いくら、れいの水を飲んでもそれは変わらんよ。分かったら私は行くよ?今日は未だ人間の死体を片付けていない」

勿論、これは建前である。
八霊名水のこととなると蒼水れいの話は長い……聞いていてうんざりするほどだ。
だから適当に話を切り上げさせてやるのが良い、それに、
「人間の死体は放っておくと腐敗する」
という事情もある。
ただでさえ汚いのにそれ以上となると堪ったものではない。
風切あやかはすっと立ち上がる。髪が風に揺れる。足元に力を入れる。
「それじゃ、私は行くぞ」
「まっ……待ったぁ!」
風切あやかの脚ががくっと重くなった。忌々しげにそれを見やると蒼水れいが、
「離すものか!」
と、言わんばかりに脚にしがみついているではないか。

(何だ何だ……?)

風切あやかは脚に込めた力を抜きぶんぶんと前後に振った。しかし、蒼水れいは離れない。
蒼水れいがしがみついた姿勢のままで顔をあげた。
「それなら、その人間の死体に我が八霊名水を飲ませてみよう。いくら人間の穢れた死体であっても、きっと奇麗に浄化されるに違いない」
「…………」
風切あやかは厄介そうに蒼水れいを睨み、はぁと一つ息を付く。
「そんな水にそんな力が……汚い人間に効く訳がないだろう」
そう言うと、蒼水れいがしがみついている脚を大きく前へ振った。堪らず、蒼水れいは振り飛ばされた……がしかし、そこは流石に水の精霊というべきだろうか、雨水の如く着地する。

そしてにかりと肌と同じく真っ白な歯を見せると、
「面白い。その挑戦、受けた!」
と笑った。
顔色も白い蒼水れいが言うのだから、もっともなことであった。
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by metal-animal | 2010-04-17 17:40 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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