カゼキリ風来帖 ~ 八霊名水の章 その3

今回で今月分は終わりです。
意外と短いのか、それとも長いのか……
それはちょっと分からないですが、来月分も頑張って創りたいと思います、うん。
(といっても、一通り出来てます。残った時間はフリーの創作タイム)

さて……

オリジナル小説です。興味のある人だけどうぞ。



人間、川岸みなもが友人二人と八霊山へ入ったのは朝の10時頃であった。
人間の世界では八霊山は<神の山>と呼ばれている。山に入ったものはことごとく神隠しに遭い死体すらも外へ出ない……というのが、近隣の里に住む老人達の脅しであった。

がしかし、今年で18の川岸みなもとその友人。その若さによる好奇心から、思わずして
八霊山に入ろうと計画したのが1年前であった。
調べれば調べるほどに興味が沸いてくる川岸みなもである。老人達の話など、所詮は伝説あると都合よく解釈し、意気揚々に、今日、八霊山の山道を歩いていたものだが……

「あっ……」

と、前を歩く友人が倒れたと思いきや

「えっ……」

次には自分が地に伏していた。

何が起こったかは分からない。ただ声も出せず、首元に焼けるような熱を感じ
さあっと息をひきとってしまったのだ。
勿論、これは護山家たる風切あやかの仕業であったが、当の川岸みなもとその友人2人は、
誰一人それに気付くことはなかったのだった。


                     ○
 

「ほほほ、こいつらが今日、あやかちゃんが仕留めた人間達だあねぇ」
にこにこと微笑みながら、とうに死んでいる川岸みなもと友人2人を見下ろしているのは、
水の精霊の蒼水れいである。
「それにしても随分奇麗に殺したねぇ。首も身体もとっても奇麗だよ……はっはっは」
「ふん。あんまり派手に殺すと衣が汚い血で汚れるからな」
蒼水れいは死体の近くにしゃがみこみ、くいっと川岸みなもの顎元上に上げ、その死に顔を堪能する。その様子を風切あやかは冷ややかな目で見ていた。背は木に預けてある。

「じゃあ、決めた。こいつに八霊名水を飲ませてやろう」
「ん、こいつ?他の二人はいいのか」
「あぁ、他の二人はいいや。私はこいつが気に入った」

そう言うと蒼水れいは、自分の気に入った川岸みなもの死体の口を右手で開けさせると、
腰に下げていた水筒を掴み、それを川岸みなもの口へと流していった。
(あんな死体に水を飲ませて一体何になるものか)
風切あやかは腕を組んでそれを見ていた。顔は不機嫌に歪んでいる。
ただただ蒼水れいは楽しそうに水を死体の口に注ぎ込んでいる。
「ら~らっららー。るんるんらぁ♪」
ついには鼻歌まで歌いだした。
とんとん、と、知らず知らずのうちに風切あやかもそれに合わせて靴を鳴らす……が、
顔は相変わらず不機嫌なままであった。

そして、2分ほど経った時である。
「おっ。おおお!?」
蒼水れいが驚きの声を上げた。
少し眠気に襲われていた風切あやかは、はっと眠気を吹き飛ばすと、ばっちりと目を光らせた。
何事か、と、蒼水れいを見るや、風切あやかは声を失った。

「うっ……うーん」

声を上げ、身体を起こすものがあった。それが、他ならぬ自分が殺した人間であったから、
「声も出ない」
のである。

「おっ、おい!これはどういうことだ!?その人間は確かに殺したはずだぞ」
「ふっふっふ。これが名水の力だあねぇ。名水の力でこの人間は生き返ったのさ」
最初から分かっていたとばかりに蒼水れいはにやにやと笑い、
「もっとも……こいつはもう人間じゃないがね。汚れを浄化しちまったからさ」
笑いながら、とぼけた顔をした元人間川岸みなもの頭をさすってみせた。
その様子には、流石の風切あやかもぞっとするものが走った。けれども、
「さ、これで名水の力が本物だと分かったね。八霊名水は至高の水さ。さぁ、名水を飲め」
などと、急に春が来たような明るい調子の声を上げるものだからしょうがない。
風切あやかは、はぁと大きく溜息を吐くと、
「分かった分かった。お前の水は本物だ」
心の何処かで納得できない部分はあるものだが、そればかりは認めざるを得なかったという。


それで、この人間……あぁ、元人間というべき川岸みなも。
彼女は全てを水に流してしまったように、人間の頃の記憶を失ってしまったそうな。
そして、水に流されるが如く、蒼水れいが彼女を引き取っていったというのは、
この場を借りて明らかにしておくとしよう。

何も知らず、何もなかったように今日も水は流れていく。
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by metal-animal | 2010-04-19 22:24 | カゼキリ風来帖 | Comments(2)
Commented by 兎と亀マスク at 2010-04-21 00:40 x
元・人間のあやかが山に侵入してくる人間たちを殺すとか、山の名水を飲ませると死んだ人間も生き返るとか、いろいろ設定が面白いです。
蒼水れいのしゃべり方とか性格、鼻歌歌い出すところとか、なんか好きです。

近代的なものは出てきていないので、時代設定はかなり昔なのでしょうか。
続き、楽しみにしています~。
Commented by metal-animal at 2010-04-21 23:42
>兎と亀マスクさん
コメントありがとうございます。
設定に関しては単発なものが多いので書けば書くほどに苦労しそうです(笑)時代設定に関しても、どちらかというと山を舞台にしているので、まぁ感じての通りになります。

続きもそこそこ、短いだけにテーマも持たせやすかったので、
どうぞお楽しみに。
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