カゼキリ風来帖 ~ 水霊の儀の章 その1

オリジナル小説です。
これだけでも読めなくはない……と思いますが、前回までを読んでおくと
色々と分かりやすいところがあるかもしれません。
興味のある人だけどうぞ。



「れいさま、れいさま」
「何だい?」
「私は一体何者なのでしょう?」
季節は夏、川辺を避けるように生えた木々の間から、太陽の光が水面へ差し込んでいる。
夏の太陽の光を受けた水面はきらきらと透き通り、まるで青い空を映し出したように
澄んでいるではないか。
その青い空の下、その川辺に向かい合うように座っている二つの人影があった。
一人は白い肌の輝く蒼水れい、もう一人は少し前まで人間であった川岸みなもである。

先の<八霊名水>の一件以来、蒼水れいは川岸みなもを実の我が子のように可愛がっている。もっとも、歳や背格好は殆ど同じなもので、傍目から見れば姉妹のようであるのだが……


「あー、そういえば、何だろうねぇ」
蒼水れいははぐらかして答えた。これについては、当のれいもあまり分かってはいない。分かっているとすれば、八霊名水の力により汚れを祓われ、そして人間ではないということなのだ。
暖かい太陽の光に当たりながら、蒼水れいは適当な返事を考えていた。
その時である。
「ん、ありゃあ……」
目の前に奇麗な緑の魚が流れてきた。
翡翠のように太陽の光を受けて輝くその体は、まさに宝石と言えよう。しかし、それは宝石でもただの魚でもない。蒼水れいはそれを知っていた。
「げえっ……こいつは……」
「どうしたのですか?れいさま」
蒼水れいは嫌そうに顔を歪めて驚愕していた。彼女のそんな表情は滅多に見れるものではない。もし、この顔を風切あやかが見たものなら、
「お前にも怖いものがあるんだな」
と、驚くよりも嘲笑を浮かべることだろう。

……それで、その蒼水れいが嫌そうに見た魚なのだが、その正体は水霊さまの使いなのである。
水霊さまといえば水の精霊の頂点に当たる存在で、八霊山の中でも有数……いや、殆どその頂点ともいえる神様なのだ。
<護山家>風切あやかや<水の精霊>蒼水れいなどにとっては、まさに雲の上の存在だ。

さて、話を戻そう。
水霊さまの使いたるその魚、体長にして30cmほど……そんなに大きくはない。それが口をぱくぱくと動かした。
「はあはぁ、分かりましたよ」
一つ溜息を吐くと、蒼水れいは岩場から立ち上がった。
それ以上は何もせず、水霊さまの使いの魚は、すぅーと流れに逆らい上流へ泳いでいった。
緑色の光は何処まで行ってもきらりと光っている。やがて見えなくなった。
川岸みなもがその様子を目で追っていると蒼水れいが肩を叩いた。

「ほら、行くよ。みーなのことで水霊さまが呼んでるってさ」
「あっ、はい」
蒼水れいは「水霊さま」と口にはしたものの、川岸みなもは水霊さまが何たるかを全く持って知ってはいない。
その為、状況が飲み込めていない川岸みなもであったが、蒼水れいの言うことを拒否する選択肢は持ち合わせてはいないので、同じくして立ち上がった。
その胸には何やら不安が広がっている。
その一方で蒼水れいは……

(あぁ、私ばかりが怒られるのは嫌だ。……そうだ、あやかを連れて行こう。この一件にはあやかの奴も関わっていることだし)

と、自分達の頂点たる水霊さまに呼び出された恐怖をひしひしと感じていたという。
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by metal-animal | 2010-05-08 11:20 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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