カゼキリ風来帖 ~ 水霊の儀の章 その4

オリジナル小説です。
興味のある方だけどうぞ。






さて、風切あやか達が水霊さまの話を聞いていた頃。
水霊さまが仰っていた件の人間は八霊山の入り口へと差し掛かっていた。
大きな登山リュックを背負った人間は高矢清子、人間である。
彼女は行方不明になってしまった親友の川岸みなもを探して八霊山へやってきたのだ。
(……みなもちゃん、生きてるよね……)
みなもが友人2人と行方不明になってから、もう5日が経っている。
勿論、捜索願は出されている。
……しかし、どういった訳か、彼女達が入っていったとされる霊山「八霊山」には
捜索の手が全く入らないのだ。

「八霊山には何か不思議な力があるの」

川岸みなもは、よくそう言って八霊山の話を聞かせてくれたものだ。
不思議な力……もしかしたら、捜索の手が全く入らないのはそのせいなのではないか?そう、高矢清子は考え、自ら八霊山へ入ってきたのである。
八霊山の空気は澄んでいて気持ちが良かった。さんさんとした太陽の光を受けて、木々や草花が生気に満ち溢れている。
歩を進めるたびに高矢清子はそれを感じた。
不安の中に徐々に希望が見えてくるようにも思える。

少し進むと、広く開いた場所へ出た。側には深い緑色の苔の生えた岩がある。
ここは、かの川岸みなもとその友人2人が風切あやかによって殺害された場所である。
もっとも死体は片付けられているし、血の跡も残ってはいない。まさか、この場所でそんなことがあったなどとは高矢清子は夢にも思えなかっただろう。
それより、彼女は重要なことに気付けてはいなかった。
というのもこの時、
「彼女を見張っている人影があった」
のである。
「……あいつだ」
林の影で、低くうなるように風切あやかが呟いた。
これまた高矢清子は気付いていないが、風切あやかの殺気は相当なものである。
「待った待った……あいつを殺すのはお前さんじゃないって」
思わず、蒼水れいが諭した。
そして、ちらりと横に居る川岸みなもへ目をやった。

(……私が……人間を……)
何やら緊張した面持ちだ。顔は下を向いている。
それを見かねて蒼水れいは、
「ほら、行きな。さっさとやらないとあやかの奴が横取りしちまうよ」
と、ぽんと川岸みなもの背を押してやった。
「あっ……」
小さく声を上げながら、川岸みなもは林の影から開けた場所へと躍り出た。
ざっ、という土を蹴る音が静かな八霊山に響いた。
それを聞いて高矢清子は振り返った。たちまち、

「みっ、みなも!?」
「えっ……あっ……」

双方、心に水滴が落ちる。動きが止まった。
目を大きくしている高矢清子に川岸みなもは驚き、戸惑った。
(わたしの名前?あの人間は……)
心の何処かで自分はあの人間のことを知っている気がする。だが、それがどうして、何故なのかは、今の川岸みなもは知る由もない。
勿論、高矢清子はそういった川岸みなもの心情など知ったことではない。
「今まで何処にいたの?さ、帰ろうよ」
そう言って、手を差し伸べてきた。
以前までの二人の関係ならば、その手をみなもは取っただろう。しかし、今の川岸みなもは、
(あの人間は一体……)
その手を取れずにいる。

「どうしたの?さぁ、帰ろうよ!」
じりじりと距離が詰まる。
「えっ……ああ……」
一歩、二歩と後ずさる。
その様子はとてもじれったいもので、
「何をしているんだ。みなもは……さっさとやってしまえば良いのにさ、ねぇ」
「ぐずぐずしているようなら、私がやるぞ」
などと、それを見守る蒼水れいと風切あやかは呟いていた。
ついでに言えば、この時、風切あやかの手には黒色の短刀が握られていて、
木漏れ日を受けてはぎらりと鋭く輝いていたものだった。
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by metal-animal | 2010-05-22 12:10 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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