カゼキリ風来帖 ~ 精霊鳥と生命の桜の章 その1

オリジナル小説です。
興味のある人だけどうぞ。







春の暖かい風が吹いている。
その中で、
「ぎゃあ……」
と、消え入るような声が響いた。
風切あやかは、この時、3人の浪霊を打ち倒していたのだ。
浪霊とは……
山の加護を受けていない精霊のことをいう。他の山や地域より侵入してきた者が死ぬと、不浄の魂が行き場を求めて浪霊となるのだ。
その浪霊も現れてから暫くの間は普通の精霊と殆ど変わらぬものだが、彼等は山の加護を受けることが出来ない。山の加護を受けられないと、浪霊は自分の存在を見失ってしまう。そして、最後には本能のままに暴れまわる亡霊と化してしまうのだ。
これを風切あやかや高山はるかといった八霊山の護山家は山を守る為に日々打ち倒している。こういう訳なのである。

さて……

この時、風切あやかは1人の浪霊を逃がしてしまっていた。
何せ浪霊とはいえ、4人を相手にしていたのだ。高山はるかの姉であり今は修行の旅に出ている高山かなたの元で修行を積んだ風切あやかであったが、流石に人数の差を埋めきるのは難しい。

「まぁ……いいか」

どうせ浪霊ならば、いつか斬らなければならない。深追いをすることもないだろう。
そよそよと木々の間を暖かい風が通り抜けていく。
風切あやかは、風に乗るように、流れに流れてある場所へと向かっていた。
八霊山の頂上の少し手前にある大きな桜の木の前……というのも、
(そろそろ桜が咲く時期だな。そうだ、一つ見に行ってみるとしよう)
なのであった。


ビュンビュンと疾風の如く木から木へ、岩から岩へと駆け抜ける風切あやか。
木に留まっているシジュウカラの脇を通り過ぎ、時には休みを入れて30分ほどで件の桜の木の元へと辿り着いた。
風切あやかの目の前には、今、壮大な桜の木がそびえ立っている。

聞いた話によると……

この桜の木は八霊山の始まりの時からあったと言われている。あまり難しいことは興味がないので覚えてはいない。しかし、春には軽く透き通る綿毛のような花弁を纏い、夏には輝くような緑の葉、そして秋には哀愁漂う茶色の枝が映える。
これらの様子を風切あやかは、もう何年も見てきたものだ。

(今年はいつ頃満開になるだろうか)

木の根元から、じっとつぼみを付けた枝を見つめ、風切あやかは思った。
そこへ、
「ピィー ピィー」
と、不意に鳥の鳴き声が聞こえてきた。
(……うん?)
しかし、それは普通の鳥の鳴き声ではなく、
(頭の中に直接響いている……?)
ような鳥の鳴き声なのだ。
風切あやかは目を凝らし、その声の主を探してみた。すると、
「あっ……」
小さく声を漏らした。
桜の木の上の方に、ちょこんと一つ、鳥の巣が出来ているではないか。
そして、その中には1匹の鳥のヒナがいる。風切あやかにはそれが見えた。
「あれはヒナ鳥か?」
ヒナ鳥は青白く透き通るような姿をしている。そのヒナ鳥がピーピーと笛のような鳴き声を上げているのだ。
それを見た風切あやかは、
(しかし、見た事のない鳥だ)
と、じっとその鳥を眺めていた。そこへ……

(あっ……)

風邪の向きが急に変わった。これは、
「高山はるかが私を呼んでいる」
ことを示しているのだ。
はっとして風の向きに目を向けていた風切あやかは再びヒナ鳥へ視線を送ると、
「邪魔をしたな……縁があったらまた会おう」
そうつぶやいて、桜の木の前を後にした。勿論、その声はヒナ鳥へ届いていたかは分かったものではない。しかし……
「ピィ」
と、ヒナ鳥が返事とも取れる鳴き声を発していたのは確かであった。
もっとも、その時には風切あやかは既に、その場を後にしてしまっていたのだが……。
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by metal-animal | 2010-06-05 23:03 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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