カゼキリ風来帖 ~ 精霊鳥と生命の桜の章 その3

オリジナル小説です。
興味のある人だけどうぞ。





その日から、風切あやかは精霊鳥の親子を見張り始めた。
見張る以上は相手に気付かれてはならない。ある程度、離れた場所にある大木の枝の上、木の葉に隠れて風切あやかは精霊鳥を見張ることにしていた。

「……うーむ」

特にさしたる異変はない。だが、気になることはいくつかあった。
「む、また始まったか」
親鳥の甲高い泣き声が響き渡った。
鋭い鳴き声と共に羽を大きくばたつかせる親鳥である。そして、何かヒナを小突くような態度を見せると、そのまま何処かへ飛んでいってしまう。
ひらひらと青白い羽が舞う。昼間の爽やかな太陽に光に当たり、羽は夜空の星のように輝いていて、離れた場所に居る風切あやかにもそれが見える。

こうなると親鳥はしばらくは戻っては来ない。
この間に親鳥が何をしているのか……それは風切あやかも気になっているのだが目的は見張りである。
親鳥の方を追っている間に肝心のヒナの方に何か起こっては意味がないのだ。
ヒナは次代の精霊鳥となる。
「これに何かあれば本当に異変に繋がりかねない」
高山はるかもそう言っていたし、風切あやかもその深刻さは何となく分かっているからどんな状況であっても、
「ヒナから目を離してはいけない」
のである。
報告には手紙を使う。手近な野鳥を笛で呼び寄せ、文を持たせる。
今回はヤマガラがやってきた。赤茶色の羽を身にまとったスズメのような鳥だ。
風切あやかは少し眉をひそめたが折角来てくれたのだ。ありがたいと思わなければならない。
本当なら親鳥の尾行も野鳥に頼みたい所なのだが、いかんせん、そこは野鳥である。上手く尾行することも出来はしない。
風切あやかは小さなヤマガラでも運ぶことが出来るよう、小さな紙に筆を走らせ、
「はるか様へ……頼むぞ」
それ言って、ヤマガラを送り出した。


さて……


今回、風切あやかが高山はるかに報告したことといえば以下の事である。

一、精霊鳥の親鳥はヒナに対して冷たい態度をとっている。
一、親鳥が癇癪を起こすことがあり、その際はヒナを残し何処かへ飛んでいってしまう。
一、冷たい態度をとられていてもヒナは親鳥を好いており、親鳥が戻ってきた時には甘えた声で鳴いている。

結果、精霊鳥の親子は仲が良いのか悪いのか……分からない。
特にさしたる異変は今の所、見受けられない。

なのであった。



そして数日が経った。
八霊山の空気も、風も、段々と暖かくなりつつある。生命の桜もじきに満開になるだろう……そんな日和である。
空は青く澄み渡っている。そんな空の下で、風切あやかは今日も精霊鳥の親子を見張っていた。
精霊鳥の親鳥はヒナへ乱暴を働いている。それなのにヒナは親鳥に甘えている。
相変わらずのこれだった。
しかし徐々にだが、その状況に変化が起こっているのを風切あやかは見逃してはいない。
「精霊鳥の親が消滅の時を迎えようとしている……?」
このことである。
見張りを始めた時と比べて明らかに痩せ細り、身体を覆う青白い光も、薄く、消え入りそうになっている。
(このまま精霊鳥の親鳥が消えれば、今までどおりになるのだろうか……)
風切あやかはそう考えた。
今回の異変は、一羽しか存在しないはずの精霊鳥が一時的とはいえ、ニ羽になってしまっていることにある。ならば先代の精霊鳥の親鳥が消滅してしまえば、元の一羽に戻るのではないか。
考えて、それを報告の手紙にまとめ始めたとき……

「グギィアアッ!!!」

全てを貫くような高い奇声が響き渡った。
「…………っ!?」
それを発したのは、勿論、精霊鳥の親鳥だった……が、それは今までに聞いたことがないほどに凄まじいもので、今日まで精霊鳥の親子を見張っていた風切あやかでさえ、
「あれが鳥の出せる鳴き声なのか……?」
と、4秒ほど呆然と立ち竦んでしまったくらいであった。


我に帰ると風切あやかはすぐに精霊鳥の巣へと目を向けた。
巣では親鳥がバサバサと翼を振るい怒り狂っている。どうやら、ヒナが親鳥の逆鱗に触れてしまったらしい。嵐の如く、身体を振り回し巣を掻き乱すと、親鳥は何時ものように何処かへ飛んでいってしまった。
ぱらぱらと巣を成していたわらや枝が生命の桜に根元へと落ちていく。
今回のことは流石に堪えたらしい、ヒナはピーピーと声をあげ泣き出してしまった。
(はぁ……いつもの……か)
風切あやかは溜息を吐くと、
「どうやら、あの親鳥はヒナのことが大嫌いなようだな……無理もないか」
小さくつぶやいた。
高山はるかから聞いた話によれば、精霊鳥は親鳥の消滅をもってヒナが生まれるという。つまり、精霊鳥には子育てというものが存在しないと考えても良い。
先にも述べたとおり、精霊鳥は死んだ生命を集めて成長する。他の生物のようにエサを必要とすることはないのだ。

親を必要とせず、子育ても知らない精霊鳥。

このことも一応、文にまとめておこうと風切あやかは手を動かした。もっとも、そんなことは高山はるかに報告するまでもないかもしれない。
風切あやかは自嘲しながら、文を見つめ筆を動かしていると……
(…………うん?)
不意に全身の動きが止まった。同時に神経もぴんと逆立つ。
(これは……)

太陽は天辺を通り過ぎた頃合だ。不思議と鳥の鳴き声も風の音も何も聞こえない。
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by metal-animal | 2010-06-19 11:32 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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