カゼキリ風来帖 ~ 精霊鳥と生命の桜の章 その4

オリジナル小説です。
興味のある人だけどうぞ。

お知らせ
中身は短くても1月に1作を目標に作っている『カゼキリ風来帖』ですが、
来月は応募用の原稿作業の為、アップできないです。
頑張って再来月には再開しようと思いますので、どうぞお楽しみにお願いします。






風切あやかが息を殺して見やったもの、それは浪霊だった。
黒い影は人の形をしており、手にはその身体と同じ様な黒い刀が握られている。
(あいつは……この間、逃がした奴か?しかし……)
感じるものが違う、このことである。
この前に戦った時とは全く別物と言えるような、強い威圧感を周囲に放っているのだ。
風切あやかの背中にじっとりと冷たい汗が流れた。
正直、今の自分にあれが倒せるものか……その確信が持てない。

ごくり、と一つ唾を飲み、
(……ここは、応援を頼んだ方が良いか……?)
考えたが、風切あやかはすぐに退く手を捨てた。
「否!」
それは自信の誇りの為であったし、それに、
(あいつは精霊鳥のヒナを狙っている!)
と、直感したからに他ならない。

まさしく、あの浪霊は精霊鳥のヒナを狙っていた。浪霊が発している威圧感と殺気の殆どはヒナへと向けられていると見える。
ぴりぴりとした空気が周りの木々の枝を揺らしている。
ヒナと浪霊との距離はもう余りない。風切あやかが応援を呼びにその場を離れたものならば、たちまちにヒナ鳥は殺されてしまうだろう。そうなっては、何が起こるかわかったものではない。


考える間もなく、風切あやかは腰元に帯びている短刀を抜き打ち、疾風のごとく、浪霊へと迫った。
完全な不意打ちであったはずだったが、短刀と刀がぶつかり合い、高い音を上げ、火花が散った。
風切あやかは脚を開き左手に構えた短刀へ右手を添え、ぐぐぐ、と短刀へ力を込めたものだが、
「ぐ……うっ……」
浪霊の力は滝を流れ落ちる水のように強い。堪らず、後方へと跳ね飛ばされてしまったのだ。
これを好機と見て、浪霊が八双に刀を構え、振り下ろすのを、
(…………っ!!)
さっと身体を転がし、追い討ちを避けた風切あやかであったが、
「ううっ……」
完全に避けきることはできず、右脚へと切り傷を追ってしまった。
斬られた足がじんと熱くなり、赤い血がじっとりと湧き衣を濡らしていく。

風切あやかは動けない。
それを見届けるや、浪霊は風切あやかから視線を外し、精霊鳥のヒナへと向かいだした。
浪霊は風切あやかがヒナを守ろうと駆って出たことを悟ったらしい。それならば、この前に仲間を消滅させられた腹いせに、風切あやかの守ろうとしたヒナを、その目の前で殺してやろうと決めたのだろう。
すぅーと黒い影が生命の桜の大樹へ、そしてヒナへと迫った。
(くそぅ……)
風切あやかは、ぎゅっと顔をしかめ、歯を噛み、悔しがった。
動こうにも切られた脚の傷はかなり深い、今すぐに動くことは到底に難しいものだ。
そうしている間にも、じりじりと浪霊はヒナ鳥へと迫っている。枝を一つ一つ丁寧に飛び、確実に迫っている。
そんな浪霊の様子に、とうとうヒナも気付いたようだ。
小さな目を大きく開き、ピーピーと甲高く泣き出してしまった。
生命の桜の大樹に作られた巣からは逃げることも出来ない。
不意に黒い風が吹いた。青白いヒナの羽がなびく。
ついに浪霊がヒナの目前へ現れたのだ。黒い刀の切っ先が無情にもヒナへと向けられている。
(くっ……ダメか)
風切あやかが思わず目を閉じた、その時であった。


「……ぐ、うっ!!」
ぐぐもった浪霊の声が響いた。浪霊の身体が宙へ飛び、途端に生命の桜の大樹へと叩きつけられた。
これには浪霊も相当な衝撃を受けたはずであろうが、すぐさま、浪霊は立ち上がり刀を構えると、自分を突き飛ばしたらしい青白い影へと向かい合った。
青白い影が再び鋭く飛びながら浪霊へ迫る。
青と黒、二つの影が真っ向からぶつかり合った。
この直後、片方の影が霧のように消えた。それは青白い影であり、まさしくあの精霊鳥の親鳥であったのだ。
浪霊の身体が泳ぐ。精霊鳥の親鳥の一撃は渾身のものであったのだろう。

この瞬間を風霧あやかは見逃さなかった。全ての力を振り絞り、右脚の痛みを堪え立ち上がると、すぐさま、浪霊の元へ駆け、黒い短刀をえぐるように突き立てた。
これが致命傷であった。
「おぉおおぉぉっ」
うなる風のような悲鳴を上げて黒い影が消え去った。


「…………」

風切あやかは何も言わず、腰を落とし、その場で仰向けに倒れこんだ。
頭上には、今こそ生命の桜が満開となり、桃色の花びらが優雅に舞っている。
精霊鳥のヒナもそれを見ていた。それを見ると、小さな翼を広げ、ばたばたと巣を飛び出し、その姿はたちまちに空の青色へと吸い込まれて、やがて見えなくなった。


(あれは……そうか)
風切あやかはゆっくりと目を閉じた。
風が大きく吹いて、桜の花びらがひらひらと風切あやかの目元へと落ちてきた。
その時、風切あやかは全くそれを感じなかった。
感じていたことといえば、ただ、
(暖かな春の風が吹いている・・・)
このことであった。
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by metal-animal | 2010-06-26 12:08 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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