カゼキリ風来帖 ~ 残されしものの章 その2

先週は空いてしまって申し訳ありませんでした。
Pixivに投稿などを考えていますが、まずはこの作品の完成に向けて頑張っています。

さて……

オリジナル小説になります。興味のある方はどうぞ。






「あやか、私です。はるかです」
そう言って高山はるかは風切あやかの小屋の戸を叩くと、返事を待たずして中へ入っていった。
普通ならば、それはとても失礼なことだが、そこは高山はるかである。これにはちゃんと理由がある。
「ふむ、ちゃんと横になっているようですね。よろしい」
このことである。
この時、風切あやかはきちんと横になって療養に励んでいたものだが、高山はるかとしては、
(きっと体がなまってしまうことに不満を抱いて、密かに体を動かしているのでは……)
と思っていたのだ。
しかし、それも杞憂であったようで、
「あ、はるかさま、こんにちは。今日もお見舞いありがとうございます」
えらく大人しく、そしてしおらしくしているではないか。そう言って体を起こした、風切あやかはどこか可愛らしいものがある。

「はい。調子が良さそうで何よりです。私はあやかが無理に体を動かしているのではないかと心配でしょうがありませんでした。幸い、そんなことはなかったようで大変結構です。」

「あぁ……はい」

これに対しては何処か気のない返事をして、風切あやかは少し目を背ける。というのも、
(はるかさまの風を感じて、念の為に横になっていて良かった……)
などと、思っている風切あやかなのだ。
額から一つ汗が流れ、線を引いた。そこへ吹き込んだ風が触れると、まるで氷のように冷たく感じる。


「それで、今日は何かあったのですか?お見舞いはつい一昨日も来たばかりではありませんか」
「……あやかは私に来て貰っては困るのですか?」
「いえ……そんなことはありませんが……」
今度は胸の中に汗が噴出し始めた風切あやかである。
「まぁ、冗談はこれくらいにします。実はです。大事な仕事が入りました」
「大事な仕事……」
それを聞くや、風切あやかの顔が真剣味を帯び始めた。
大事な仕事とは、山神さまから直接与えられる八霊山を守る為の大事な任務を示している。
それを理解しているからこそ、この時の風切あやかは療養中の身でありながら、心持は既に、これから戦へ向かう戦士のような心境であった。

「本当なら、あやか、この仕事はあなたに協力をお願いしたい所でした。前回の一件であなたが無茶をしなければ……です」
「はるかさま……」
きっとお互いが目を見張った。
「お言葉ですが、あの時はああする他はありませんでした。ああしたことを、私は、間違いであったとは思っていませんから……!」
「もしも、それでまた命を落としていたとしてもですか?」
「……はい」

「…………」

沈黙が続いた。
その中をひらひらとシジミ蝶が舞い込んで、しばしの間、何の考えもないように飛び回っていたが、やがて突拍子もなく出て行った。

「そうですね。あやか。だからこそ、私はあなたに仕事を頼むのですよ。きっと、あの状況ならあの人も同じことをしたでしょうからね」
「あの人……かなたさまですか」


高山はるかが「あの人」と呼び、風切あやかが「かなたさま」と呼んだ人物……。
彼女の名前は高山かなたという。高山はるかの姉に当たり、風切あやかにとっては剣術の師に当たる。風切あやかと高山かなたの剣術修行については、多くの逸話が残されているものだが、それについて今は述べることは避けておく。しかし、いずれこの話について紐解く機会はあるだろうから、興味のある人は参照して欲しい。

その高山かなた、今は八霊山を離れ、各地を旅しているのだ。本人が言うには、
「剣術を磨く旅……」
ということになっている。

「はい。今は何処で何をしていることやら」

緑の葉を着けた木々に止まっていた雀が飛び立った。風切あやかは顔を上げた。
窓の外には青い空が広がっている。何処かを旅している高山はるかも、
(きっと同じ青い空を見ていることだろう)
そう思うのだ。
春先に八霊山を飛び立った精霊鳥のことも未だ忘れてはいない。


「では、私もそろそろ行きますよ。大事な仕事のための調査をしなければなりませんから」
すっと立ち上がり、
「また来ますよ。その時は、しょうも連れてきますから。」
ばたんと戸を閉め、高山はるかは風切あやかの小屋を後にした。
一人残った風切あやかは、ぱたんと体を倒して苦笑を浮かべ、

「柿留しょうか……あいつ、私のことを嫌ってるんだよなぁ。見るといつもどっかいっちゃうし……」
一人そうつぶやいたものである。
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by metal-animal | 2010-08-20 12:06 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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