カゼキリ風来帖 ~ 残されしものの章 その3

中々思うようなキリの良い所がないもので、今回はちょっと短めです。
興味のある人だけどうぞ。






それから一週間を経た。
連日、晴れた日が続いていた八霊山であったが、隣の山の陰より少しずつどんよりとした灰色の雲が広がり、今ではもう昼間だというのに辺りはもう薄暗くなり始めている。
灰色の空を通して白い光がゆったりと辺り一面を照らしていた。

この時、高山はるかは神風高原へと足を運んでいた。
神風高原は、八霊山のすぐ隣にある高原で、このこの辺りも八霊山の山神さまの管理下にある。
高山はるかは高台から神風高原を見下ろし、鉛色の雲が浮かぶ空へと視線を動かし、
「ふぅ……今日も手掛かりはない。そうして空も暗くなった」
山神さまの仕事を受けて以来、例の浪霊による被害は出ていないのだ。
なりを潜めているのか、それとももう何処かへ消えてしまったのか……
それは分からないが、どちらにしても、
「脅威の可能性がある以上は、取り除かなければなりません」
なのである。

風が大きく吹いた。背の高い草が波打つように揺れている。
その様子を見て、高山はるかの脳裏にふと
「ある光景……」
が浮かんだのだ。それは……

「ここの風が大好きなんだよ。ここの風を感じると嫌なことも、そのしがらみも、全て、忘れられるからさ」

この高台から高原を見下ろし、気持ち良さそうに風を受けている少女が見える。
後ろに結んだ髪が川の水のようになびいている。
彼女は高山かなたという。高山かなたはこの高原が好きで、よく妹の高山はるかを連れ立っては笑いかけてくれたものだった。その笑顔はとても綺麗で、今でも高山はるかはよく覚えている。


「嫌なことやしがらみか……」
思わず呟くと、高山はるかは彼女がそうしていたように、高台を見下ろしてみせた。
空は濃い灰色をしているが、高原の木々は青々としている。
(なるほど)
何か不思議なものが胸の中にじわりと広がるのを高山はるかは感じた。
それが何であるかは分からない。ただ、
(高山かなたもきっと同じものを感じていたのだろう)
というのは不思議と分かる。
そこはやはり同じ血を分けた姉妹だからというべきだろうか。
高山はるかが空と高原の境を見ながら、苦笑を浮かべたその時であった……


(…………!!)
風が吹いた。しかし、ただの風ではない。
黒い風……鋭い殺気のこもった力のある風だ。


咄嗟に刀を抜いて振り返った。本来なら、その行動には多分の隙ができるものだが、そこは流石の護山家『特務役』のまとめ役の高山はるかである。その行動には一分の隙も全くない。ここに高山はるかの実力を見ることができる訳で、風切あやかなどではこうもいかずに、
「私が短刀を抜いて構えた時には、既にはるか様は一閃を入れている……」
と舌を巻いているのだ。
八霊山でも『瞬天のはるか』との異名を持っている彼女であるが、
「む……!?」
相手と向き合った所で、思わずしてその顔に驚きの色が浮かび上がった。
「あっ、あなたは……」
ぽつり、と冷たいものが頬を伝った。雨が草を打つ音が静かに響きだした。
[PR]
by metal-animal | 2010-08-28 11:36 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
<< Pixivに射命丸文の色紙を投... 更新お休みです。 >>