カゼキリ風来帖 ~ 残されしものの章 その4

オリジナル小説です。
興味のある方はどうぞ。






ぽつり、と冷たいものが頬を伝った。
しとしとと雨が草を打つ音が静かに響き渡っている。
向かい合った相手…・・・それは高山かなたであった。
上から下まで、身体の全てを黒い衣で覆っており、その姿はまるで影そのものに見えるし、浪霊とも見える。
しかし、高山はるかが、それを高山かなたと認識したのには一つの特徴があった。

「風竜剣……」

大刀を身体の右側へと構え、そこから更に上へと刀を持ち上げる。そこから放たれる一撃は、まさに雷とも言って良いだろう。強烈な威圧感を纏ったその迫力はまさに震鱗……風竜の名に相応しい。
高山かなた本人も、
「これぞ私の風竜剣」
と誇っていた唯一無二の構えである。


その風竜剣の構えを取る影が、今、目の前に立ちはだかっている。その全身からは凄まじいまでの剣気と殺気が放たれている。
高山はるかは今は特に顔を隠している訳ではない。空も曇り模様であったし、傘や帽子の類は必要ないと思っていたのだ。
従って、相手からは自分の顔が分かっていると見てもよい。ならば、
(どうして自分に刀を向けているのか……?)
と高山はるかは考え、
(あれは本当にあの人なのだろうか?)
本物の高山かなたであるかどうかを疑い始めた。
考えれば考えるほどに疑わしいものだが、何処かにあれが高山かなたであるという認識が自分の中にあるのは確かなのだ。それが何故なのかは分からない。だが、
(本物かどうかは分からない……しかし、まずはあれを倒さなくては……)
考えることはすぐに止め、相手へと意識を向けた。
迷いはない。そこの判断や覚悟はさすがの高山はるかといえよう。
例え相手が実の姉であろうとも、こちらに牙を剥き襲い掛かってくる以上は倒さなければならない。


高山かなたは、依然、天へと刀を構えている。
その構えにより、開いた身体へと……高山はるかは瞬時に間合いを詰め、疾風の一閃を打ち込んだ。
風竜剣も吼える。
構えた刀がさも雷を纏った風竜のように大地へ降り立つ。
小太刀と大刀が正面からぶつかり合った。振動と衝撃が場の空気を震え上がらせる。
「…………!!」
その余韻が消えた頃、二人は後ろへと飛び退った。
高山はるかの手が小刻みに揺れている。びりびりと大岩へ刀を打ち付けたような痺れが走っているのだ。

今、この二人の距離は2間ほど開いており、高山かなたの大刀を持ってしても斬りかかるには、踏み込みを要するだろう。
高山はるかは震える手にぎゅっと力を込め、小太刀を握り直した。腰を沈めて前へと構えを取った。同じくして、向かい合う高山かなたも、再び、風竜剣の構えをとっている。

一つまた一つと雨が落ち、絶え間がなくなった。
雨が草を叩く音がしきりにたっているが、この場の二人には既にそれは聞こえていない。


きっ……と双方が目を見張った。もはや、この場所ではこの二人しか存在していない。
雨も風でさえも感じない。
「まるで時がとまっているようでした……」
後に高山はるかはこう語っている。
二人の体から発せられる鋭い剣気の前には、鳥や動物などには全く入る余地がない……間に入るものが何一つ存在しないものだから、
「時が止まっている……」
のである。
それだけに、その場の緊張の糸はぴぃんと張り詰めており、今にも音を立て切れそうになっているのだ。
絶え間のない雨はたちまちに強くなり本降りとなった。
二人の衣が雨に濡れて黒ずんでいく……。
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by metal-animal | 2010-09-04 22:15 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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