カゼキリ風来帖 ~ 残されしものの章 その8

オリジナル小説です。
興味のある方はどうぞ。





八霊山の裏側に天真館という建物がある。
風切あやかの小屋よりも縦にも横にも遥かに広いその建物は、今はもう殆ど廃墟と化している。
草花は生え、天井は所々が抜け落ちては、そこから太陽の光が注ぎ込む。軒下には鳥が巣を作り、縁側には動物が雨宿りをした・・・あるいは住処としていたような跡さえも残っている。
つまり、今の天真館は殆ど自然に還ったといっても良い。
この天真館は元々道場であった。
幼き日の高山はるかと高山かなたは、この道場の主たる黒烏けんしの下で、日々剣術の修行に明け暮れていたものだった。
この頃の天真館は黒烏けんしが、毎朝、床を拭き清めたり草をむしったりして、毎日、整理整頓の手が行き届いており、とても道場としての気品や風情に溢れていたものだった。
そこへ高山はるかに高山かなた、それに数名の護山家が来れば、天真館に気合が満ちる。
ひっきりなしに竹刀を打つ音が響き渡り、流れる汗が四方八方へと飛び散る……。

そんな日々が長く続いたある日のことだった。

ある事件がもとで、黒烏けんしが八霊山から去ることとなったのだ。
黒烏けんしは仲間の護山家を一人、自身の刀で切り殺してしまったという。
ことの経緯については高山はるかも詳しくは知らない。何でも、
「黒烏けんしのことを良く思っていない者が、決闘を仕掛けてきた……」
らしいのだ。
真偽は定かではないが、その殺意が相手から仕向けられたもの……決闘であったから、山神さまは黒烏けんしへ八霊山の追放を言い渡したのだ。
これが通常の仲間殺しがあったなら、黒烏けんしは処刑となっていたことだろう。
こうして黒烏けんしが天真館からいなくなり、道場に通っていた護山家達も次第に来なくなった。
高山はるかがまとめ役に就き、高山かなたが旅に出たことで、天真館には誰もいなくなったのだ。

その天真館に一つ、思い出が残されている。
「これが私達が天真館で過ごした日々……その証だよ」
高山かなたはそう呟くと、天真館の道場、その奥に自分の愛刀を突き立てた。
これは高山かなたが八霊山を出る前日の事であり、その突き立てられた刀は名前を『風彩』という。
諸方へ旅立つにあたり、山神さまから名刀『白風』を贈られた高山かなたは、
「はるかやあやかに預けておくのも悪くはないけど……私はこうしたい」
そういって、高山はるかを連れ立ち、天真館に愛刀『風彩』を残したのだ。
高山かなたの弟子であった風切あやかは、この場には呼ばれてはいない。
というのも、
「あやかがこれを知ったら、何が何でも風彩を自分のものにしようとするからさ」
高山かなたは笑っていた。
それだけ、風切あやかは剣術の師として……身近な者として、高山かなたのことを尊敬していたのだ。
もし、その場に風切あやかがいたものなら、
「私が、風彩を……!」
そう言って聞かなかっただろう。

さて……

そんな思い入れのある天真館へ、高山はるかはやってきた。
天真館を囲っている石造りの塀は、吹き付ける風を受け、ボロボロになっていて、大きく崩れている箇所が随所に見受けられる。門は形もなくなっている。
下を見てみれば、門を形作っていた木片や石材が無造作に転がっているが、手入れのされていない天真館だけに、高く伸びた雑草がそれを覆い隠している。
日は高く昇っている。
雑草の青がよく目に映える。

すたすたと、高山はるかは天真館の中へと脚を進めていった。
黒ずんだ石の井戸、色のあせた柱、そして縁側……。
そのいずれにも人の居る、またはすんでいる気配を全く感じさせない、つまり、
「天真館は全くの無人……」
ということが言えるのだ。
しかし、それでいて高山はるかは周囲を警戒しながら先へと進んだ。
顔は正面を向け、あくまで周りを気にしている様子を見せてはいない。
「…………」
屋敷の影や廊下の曲がり角、それに置くの間など……突如として何者かが飛び出し、不意打ちを食らわせるのにもってこいの場所が、この天真館には数多く存在しているのだ。
別に周囲には特別に何かの気配を感じるわけではない。しかし、この天真館を包んでいる静寂には何か、
「ただならぬもの……」
を感じてならない高山はるかなのである。
この空気を感じつつ、周囲を警戒して高山はるかはある場所へと到着した。
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by metal-animal | 2010-10-31 11:43 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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