カゼキリ風来帖 ~ 残されしものの章 その9

オリジナル小説です。興味のある方はどうぞ。






「あの場所……」
あれは天真館の大広間である。
天真館の中心に位置するこの大広間は、一面を固くしっかりとした木材の敷かれた稽古場だった。
今はもう、長い年月を経たせいでその床は黒ずんでおり、広間の周りに立っている柱もパリパリとした乾いた表面を露呈している。
一歩また一歩と高山はるかは前へと進んだ。
年月が経ち黒ずんでいる床は、それでも踏み抜けることはない。
詳しくは知らないが、この床を作っている木材は八霊山の外から持ってきた特別な木材であったとか・・・そういう話を高山はるかは黒烏けんしから聞いたことがある。
高山はるかの足が止まった。
周りからは何の物音も聞こえない。外から流れ込んでいる鳥の鳴き声も、不思議と今は止まっている。
「……やはり、そうですか」
高山はるかは呟いた。きっ、と鷹のように目を光らせて見た先には、
(何もない……)のだ。
この大広間には違和感はない。傍から見れば、この大広間は、
「自然そのもの」
と言っても良いほどに何かが潜んでいる訳でも、柱が倒れている訳でもない。
少し感慨にふけってみれば、ここで何人もの人影が、熱心に竹刀を振り回す様子が、
「それとなく……」
思い浮かべることができる。そのような様子なのだ。
だがこの光景の中に、高山はるかは不自然さを見出していた。
それはこの大広間で長い時を過ごし……その上で、あの時に居合わせていたからに他ならない。
このどちらかでも欠けていたならば、高山はるかのいう、
「違和感……」
にはたどり着くことは出来ないだろう。

その違和感とは……

「…………」
再び一歩二歩と高山はるかは歩を進めた。
そして大広間の一番奥、一段高くなっている部分で足を止めた。
その足元には何もなかった。あるはずの「風彩」がである。
それをしかと見定めた時だった、
「やはり来ましたか」
突如として後ろに気配が現れた。間を空けずに高山はるかは振り返った。
そこには高山かなた……いや、風彩がいた。
「あなたは高山かなたであって、そうではない……私があなたに『あの人』を感じていたのはその刀のせいだった」
「…………」
返事はない。その代わりに、既に鞘から抜かれた風彩は上へと構えられた。
黒い大きな影である。
その影の中に、風彩だけが異様な光を放ち、輝いている。
「何があったかは分からない……けれど、山を乱すならば……!!」
高山はるかは小太刀「瞬天華」へと手をかけ、前へと構えた。




かちゃり……と風彩が床へ落ち、黒い影が消えた。
「…………ふぅ」
勝負はあっという間のことだった。
稲妻のように、疾く、そして力強く振り下ろされた一撃を、高山はるかは正面から小さく受け止め、するりと受け流してしまった。
「…………っ!!」
前のめりに流れた黒い影は、そのまま体勢を立て直す間もなく、後ろから瞬天華による一閃を受けたのだ。

「…………」
高山はるかは床に落ちている風彩を見た後で、自分の右手を見た。
右手にも左手にも、傷の一つも付いてはいない……しかし、受け流したとはいえ、風彩による風竜剣の一撃による衝撃は今もその手に残り、びりびりとした痺れが手を小刻みに震わせている。
外からこの勝負を見ていたならば、高山はるかが風彩の一撃を受け流したことには、さほどの労は掛かっていないように見えただろう。それはまさに、
「水が川を流れるように」
と例えられるほどに見事なものであった。
しかし、実際のところはそうではない。
風彩の振り下ろしの一撃は、そのまま岩をも砕くほどの破壊力を秘めていたのである。
これは本物ではないにしろ、本当の高山かなたに通じるほどの凄まじい力によるものだ。
それを受け止め、流すことが出来たのも、高山はるかとその名刀「瞬天華」あってこそのものだといってもよい。
もしも、これが他の刀であったなら、受ける間もなく、高山はるか共々粉砕されていたことであろう。
高山はるか自身も、
「影であったとはいえ、さすがはあの人でした……」
と後に語っている。
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by metal-animal | 2010-11-13 10:43 | カゼキリ風来帖 | Comments(0)
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