挑戦のにとり! 第1話  ドリーム・ゴーグル

にとりが超科学であれこれするお話です。
Pixivの方にもありますが、投稿用にせっかくアップしたのでこちらにも置きます。

ちなみにPixivに投稿した方のが見易いと思いますので、
良ければそちらをどうぞ。




 これは超科学が織り成す物語。
 「うひゃあ、冷たいじゃないの……!!」
 突如として声が響いた。不機嫌そうに低い声である。
 「はっ」
 とした。恐る恐る顔を上げると、そこには吸血鬼がいた。
 (うわっ、まずい)
 未だ血を座れた訳ではないが、さあーっと血の気が引いていった。
 吸血鬼に関しては天狗 射命丸文の 文々。新聞 で見たことがある。何でも物凄い力を持っていてとても我侭であるという。
 とても自分が敵う相手ではない。
 「ちょっとあなた」
 「へへえっ……」
 ああ、やっぱり怒っているようだ。季節は夏で、この河原でも十分に気温は高く蒸し暑いのだが、この時ばかりはとても涼しく感じられた。
 「この服、今日のためにおろしたばかりなのだけど……どうしてくれるのかしら?」
 「…………」
 どうしようもありません、とは言えたものではなかった。あの吸血鬼はなんとも言えない威圧感を放っており、何を言っても冷徹な言葉を返してくるに決まっている。最悪、痛い目を見させられることがあるかもしれない。
 それにしても、ただ不意に水を引っ掛けてしまったしまっただけなのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのか……。
 
 「お嬢様、お言葉ですが、その服はいつも着ている服ですわ」
 もう一人が言った。見たところ、吸血鬼のお付きのメイドのようだった。
 こちらも新聞で見たことがある。確か名前を十六夜咲夜といっただろうか。
 「それに、その服はもう何処も濡れていませんわ」
 「……あら、ほんとう……」
 「お嬢様は流水がお嫌いですから、水なんて掛かかるはずがありません。きっと何かの気のせいでしょう」
 どうやら見かねた咲夜が助け舟を出したようだ。咲夜はしきりに自分へ、
 「今のうちに早く逃げるように」
 と目配せをしている。
 逃げるなら今かもしれない。
 そおう……っと、光学迷彩ボタンに手を伸ばした。しかし、
 「ちょっと」
 ぱっとその手が止まった。

 「とにかく、あなたには落とし前をつけて貰うわ!服は濡れていないけど、私のプライド……カリスマが濡れてしまったから」
 「そ、そんなあっ」
 不条理な因縁だった。
 この後、この物語の主たる河城にとりは、この我侭な吸血鬼レミリア・スカーレットにこてんぱんにのされるのだったが……このとき、河城にとりは知らなかった。
 「いたっ!いたたたっ!!」
 この痛みが後に大きな意味を持ち、それ以降の毎日を大きく変えていくことになろうとは……。

 
 
「何だろう。にとりが見せたいものがあるといっていたけど」 
 犬走 椛である。
 生憎の曇り空の妖怪の山だ。しかし、雨が降っても木の下ならば特に困ることはない。
 今日は、にとりのラボに呼ばれている椛だった。このにとりのラボは季節や都合によって場所が変わる。前回、春の季節は桜が良く見える川縁にあった。そして今回は渓谷にある横穴だという。
 「ふう、なるほど、こういうことか」
 颯爽と着いた。さすがに河の近く、程よく日陰になっているので、空気が冷たく涼しい。
 「にとり!私だ。椛だよ」
 そう声を掛けると。
 「入っといで」
 にとりの声で返事がした。
 中は意外と明るかった。見たところ、ヒカリゴケが群生している。
 「にとりにしては……」
 椛は意外に思ったものだ。
 自然に頼っているのである。にとりは自分で道具を開発できるだけに、何でも自分の力……機械の力を使おうとするフシがある。
 荷物を運ぶ時にはアームを使う。遠く離れた仲間と会話するのにはトランシーバーというものを使う。
 他にも椛には理解できないような道具や機械を普段から使っているのだ。
 それを見るたびに椛は、
 「河童も面倒くさい生き物だなぁ」
 と思う。
 得体の知れない道具や機械に頼るくらいなら、自分の力でやってしまった方が、手っ取り早い……というのがもっぱら椛の考えなのであった。
 
 さて、少し進むと、そこにはランプと……将棋版があった。そしてにとりがいる。
 「よう、もの字!」
 「なんだよ。その呼び方は?」
 「いーや、ただ呼んでみただけさ」
 「なんだよ」
 そこにはいつもと変わらないにとりが居る。
 (いや、しかし何処かいつもと違うような……)
 そんなような気がする。
 (何だろうな。この違和感は)
 それとなく注意深く見てみるが、椛には頓と見当がつかない。
 「ま、とりあえず将棋をしようよ。話はそれからさ」
 ぱちん、と音を立て、将棋が始まった。将棋が始まると同時に、椛が抱えていた違和感は氷解した。
 (む……にとりが妙なものを着けている)
 それはゴーグルだった。目元を覆うゴーグルは、普段、実験の時やガラクタいじりをしている時に見たことがあるが、そのゴーグルとは少し違うような感じであった。
 (形と雰囲気がいつもと違うな……いつもよりすっきりとしていて小奇麗な感じだ。それに……)
 大きく棒が立っている。ゴーグルの脇、耳に当る辺りであろうか。
 椛にとって、コレが何が何だか分からないが、
 (まぁ、とにかく将棋、だな)
 ということで淡々と将棋を進めていたのだが……
 「なっ……!」
 途中、思わず驚きの声を上げた。
 そして、将棋を打つ手も止まった。というのも、
 (もう、打つ手がない……!!)
 このことであった。
 いつもなら、未だ三分の一のところである。それが今日はもう勝負があってしまっている。
 「……ありません」
 椛は投了した。
 続けて、2戦3戦と行ってみた。しかし、結果は同様、これまた速攻で勝負がついてしまった。
 
 「にとり……」
 「ふふ、もの字よ」
 言いたいことは分かっているようだった。にとりはゴーグルをぐいっと上へ上げると、にやりと笑い、白い歯を見せた。
 「このゴーグルはね。外の超技術と幻想郷の知識とアイデアを結集して開発した、ドリームゴーグルなんだ」
 「ドリームゴーグル?」
 「そうそう。相手の癖や力、気の流れを分析して、最善の手を出してくれる。まさに夢のようなゴーグルなのさ」
 「……でも、どうしてにとりがそんなものを作れるんだよ?いつものは役に立つかさえ分からないようなガラクタばかりじゃないか。今回のは今までとは桁違いに凄そうだぞ」
 「むむ、椛とはいえ言ってくれるね。これにはね、ちょいとやんごとなき事情があるんだよ……」
 にとりは急にしゅんとした様子になって、
 「聞いてくれるか!?もの字よ!!」
 と言ってきた。まるでお芝居のようであったが、流れ的にも、友人としても、聞いてやらない訳にもいかなかった。
 「ああ、話してみなよ」
 と、椛は言ってやった。 


 何でも超科学の本を手に入れたらしい。
 その本は香霖堂に置いてあり、主人の森近 霖之助が、
 「直して欲しい」
 と言っていた扇風機というのを修理した時のことであった。
 「おや、この本は……」
 その本を見つけた。
 「その本に興味があるのかい?何やら、中身は見たことのない機械について色々と書かれているんだけど……いくら僕でも、絵に描かれたものの名前や用途は分からなくてね。文面を見ても、まるで暗号だし……ああそうだ。良かったら修理の代金と一緒に持っていかないかい?」
 このことがあって、にとりはこの本を手に入れた。
 それが、この後のにとりの運命を大きく変えていくのだった。
 「こっ……これは……!」
 まるで伝説や物語に出てくるような超科学である。これが実現していれば、核エネルギー以上の様々な幻想が現実のものとなるだろう。しかしそれだけに、技術力や材料の関係で実現不可能なものが大半であった。
 とはいえ、
 「これとこれ……あ、コレも出来る」
 幻想郷にあるもので作れそうなものがいくつかあった。
 その中のひとつが、この話でにとりが着けている
 『ドリーム・ゴーグル』
 であった。
 サトリの原理と気の原理など、外では忘れ去られた原理が幻想郷にはあるのである。
 
 「それで開発してみたのがコレさ」
 にとりは額に掛かっているドリーム・ゴーグルを指差した。
 「ふうむ……」
 椛は訝しげに、そのドリーム・ゴーグルを見ていた。将棋の結果は現実のことだったが、話の方は怪しく思っている。半信半疑といったところなのだろう。
 その表情をいち早くにとりは感じ取ると、
 「ちょっと表に出てみてよ」
 たっ、と先に出て行ってしまった。
 (ふう……)
 椛はとぼとぼ後を追った。


 外へ出ると風が吹いていた。川を通った涼しげな風である。
 「もの字よ、もの字よ」
 「だからその呼び方は……」
 よしてくれ、と言おうとした所で、それよりも早くにとりが、
 「ちょいと刀を抜いとくれよ」
 といった。
 「…………?」
 よく分からない。よく分からないが、とりあえず刀を抜いてやった。
 「それを構えて」
 「構えて……?」
 「私に向かって振り下ろしてみてよ」
 「……なんだって!?」
 これには流石に驚いた。刀をこのまま振り下ろせば、にとりは真っ二つである。
 「そんなこと、出来る訳ないだろう」
 「いーや、私は大丈夫だよ」
 「何がだよ……」
 何が大丈夫なのか……それが椛には分からないが、にとりは無事を確信しているように不敵に笑っている。
 (吸血鬼にバカにされて頭でもおかしくなったのか)
 超科学の本の話と一緒に、にとりがレミリア・スカーレットに酷い目に遭った話は聞いた。
 しかしどう考えても、にとりがそのレミリア・スカーレットに勝利する様子など想像することができない。出来ないものだから、
 (にとりが私の一閃をどうにか出来る訳が……)
 ない、と椛は思っているのだ。
 ……なのだが、それでいて、にとりの方は余裕を見せている。
 それは一体どういうことなのだろうか。
 

 「ふうん、もの字が来ないなら……」
 そうポツリと言うと、にとりはふっと右腕を振り上げて、
 「どっこい、しょっと!」
 手近な岩を殴りつけた。
 「…………?」
 椛は呆気にとられた。ぽかんと口を開けて、しばらくその様子を眺めていたが、次の瞬間、
 「うわっ!!」
 思わず声を上げる事態が起こったのだ。何が起こったかというと……
 「岩が、爆発した!?」
 のである。
 あの、にとりが軽く殴った……あの岩が、である。
 「ふふ、計算どおりだよ」
 それを確認して、にとりがにやりと笑った。
 「けけ、計算って、まさか本当に!?」
 どうにも信じ難い。一応、にとりは多少の腕力は持っている。持っているが、とても岩を破砕するほどではない。実は爆薬か何かを仕掛けていた……というような、何かタネでもあるのではないかと椛は思った。しかし、にとりは手ぶらである。リュックは洞穴の中に置いてきてあるし、それらしい何かを備えている様子もなかったし、そもそも、あるものといえば、
 『ドリーム・ゴーグル』
 くらいであった。
 「計算で、あの岩を破砕するのに最適な部分を割り出したんだよ。タイミングと力の付加加減と場所さえ割れれば、そこら辺の妖精でもすぐに出来るようになるよ」
 「…………」
 これにはさすがに椛も閉口した。
 話が飛躍しすぎているというか……もう何が何だか分からないのだ。
 ただ、にとりが言うには、ドリーム・ゴーグルのお陰で、将棋が強くなったり、軽い力を最大限利用して岩を粉砕したりできるのだというのだ。
 

 ぽつぽつと雨が降り、たちまち、本降りとなった。
 空はいつの間にか鉛色を濃くしている。
 「まさか、この降りしきる雨も、そのゴーグルで避けることができる……なんてことはないだろうな?」
 椛は言ってみた。
 それに対してにとりはというと……
 
 「ああ、可能だよ。でも、ゴーグルだけじゃ無理だね。というか、雨を避けるなら、河童の本性の方が有効だよ」
 雨に濡れながら笑っていた。
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by metal-animal | 2011-07-22 17:50 | 東方短編小説 | Comments(0)
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