挑戦のにとり! 第2話 陸の上のにとり 前編

にとりが超科学であれこれするお話の第2話になります。今回は前後編に分けてあります。完結はしていますので、近いうちに後編も投稿します。



 陸に上がった河童、ということわざがある。
 これは環境の変化で力量がまるで違ってきてしまう……ということを意味しているのだ。
 文字通りの河童であるのなら、
 「私ら河童は水中や水辺では敵は無し!なんだけど、水辺から長時間離れると、水分が干上がってまるで力が出せなくなってしまうんだ」
 ということである。
 この問題はこれから紅魔館はレミリア・スカーレットへ復讐するに至り、とても無視できる問題ではなく、むしろ問題となるはずであった。
 ……なのだが、紅魔館は湖に囲まれている。確保しようと思えば水分はいくらでも取る事が出来、決して不足することはないだろう。
 しかし、そこは河童である。にとりである。
 完璧主義というか、あらゆる問題は科学(サイエンス)の力で解決できると信じているものだから、敢えてこの問題を解消しようと考えたのだ。


 そうして開発されたのが、
 「この『河月王城』だよ」
 「河月王城?なんなんだよ、それは」
 犬走椛は呆れながらに返事をした。今日もにとりに呼ばれたのである。
 川の流れが涼しげな音を立てている。太陽の日差しは木が遮っていて、木漏れ日が丁度良く岩場へ注ぎ込んでいる。
 「よくぞ聞いてくれたね。これはね……」
 「…………」
 何やら難しい話が続いた。
 それを椛なりに要約してみると、
 「空気中の水分を集めて、地上でも長時間行動できるように……ということか?」
 「……もっと面白い話をしたけれど、まぁ、そんなところだよ」
 「他のところは分からなかったよ」
 そんなところであった。
 にとりの話には、聞いたことのないような専門用語が多々含まれていた。それを話しているにとりにとっては面白いのだろうが、何も知らない椛にとっては、まるで別の種族の言語のように聞こえているのだ。
 それはさておき……
 「これで晴れて私も幻想郷の色々なところを見て回れるよ。そうだ!今日は早速、これから何処かへ繰り出そうじゃないか」
 「今日はもう遅いぞ。見ろ、空が」
 温かみのある白色がほんのり辺りに広がっている。これが過ぎれば、緩やかに夜の闇が幻想郷を染めていくことだろう。
 「でも、明日は椛は仕事でしょ?明後日もさ」
 「そりゃあ今日が休みだからね」
 「じゃあ今日に試すしかないよ。そのために今日、呼んだんだよ?」
 「むう……」
 どうしても今日に試したいらしい。ついでに言うと、見てもらいたいようだ。
 「仕方がないなァ」
 椛は一つ息を吐き、頷くと、
 「何処へ行く?私は知らないぞ」
 と言った。あくまで、出掛けることには消極的な犬走椛であった。
 もっとも、この考えにはある訳があって、
 
 (最近は、妙にあいつが突っかかってくるからな……)
 
 というのがあるのだ。
 犬走椛にとって、あいつ、とは鴉天狗の射命丸 文のことを指している。
 「射命丸?知らないよ。あんな奴」
 と言うように、犬走椛は射命丸文のことが大嫌いなのだ。この間も、見張りの仕事をしているときに、
 「ちゃんと見張りのお仕事をしていますか?」
 などと、邪魔をしにきた。最初のうちは無視を決め込んでいたのだが、
 「おやおや、白狼天狗は目が良いようですが、こんなに近くにいる私も見えないのですか?」
 と言ったり、
 「うーん、おかしいですね。そんなに大きな耳を持っているのに、私の声が聞こえないなんて」
 露骨に挑発と繰り返してきたものだ。
 こんなことが続いたので、流石の犬走椛も堪忍袋の緒が切れてしまい、
 「私は任務に徹しているんだぞ!?お前のお遊びに付き合っている暇はないんだ!!」
 激を飛ばして刀を構えた。それを射命丸文は、
 「良いですねえ、怖いですねえ」
 笑いながら、ばしゃばしゃと写真を撮っていたのだ。
 こちらは真面目に仕事をしているのに、その上役たる鴉天狗があの様とは……と、もっぱら白狼天狗達にとって鴉天狗は愛称が悪く評判も良くない。
 その癖、鬼でもないのに神出鬼没で何処にでも現れる。出たと思えば、
 ばしゃばしゃと写真に撮り、それを記事にしてしまう。
 これだから油断はできない。
 もしも、にとりと出掛けている所を出くわしたならば、
 「白狼天狗と河童の密会!!種族を超えた交際か……!!」
 というような記事になってしまうのではないかと、椛は思うのだった。
 
 「そうだねえ。まぁ、暑いから涼しい所がいいね。そうだ、墓地で肝試しとか、どう?この間、魔理沙から命蓮寺ってお寺の話を聞いたんだ」
 「ん、墓地?命蓮寺?」
 「うん。命蓮寺は空飛ぶ船だって話もあるし、実物を一度見てみたいと思っていたんだ。……それに、あそこなら文ちゃんも変なことはしないよ」
 「……ん、ああ、気付いてのか」
 「まぁね。付き合いは長いじゃん」
 「それもそうか」
 そうして二人は命蓮寺へ向かった。
 椛もにとりも光学迷彩を装備しており、その様子は誰からも見えなかったそうだ。そして、二人が命蓮寺に着くころには、すっかり日が沈んでいたものだった。



 「それはそうと、命蓮寺で射命丸のやつが変なことができないってのは、どういうことなんだ?」
 犬走椛はさりげなくにとりに聞いてみた。
 「それはさ、ここの聖白蓮さんって人がとても怖い人らしいんだ。どれくらい怖いかっていうと、それは元々山にいたあの方々並に怖いらしいんだ。……とにかく、ヤバイ人なんだって」
 話しているうちに怖くなってきたらしい。にとりは苦笑を浮かべてそういった。
 (ふうん、そんなに怖い人なのに、どうしてにとりは向かうのだろうか……ああ)
 犬走椛は先ほどは空を飛ぶ船という話に目を輝かせていたのを思い出し、
 (探求心と恐怖心では探求心のが勝るということかな)
 にとりを見た。その歩調や態度は少しも臆しているところがない。
 そして命蓮寺の前に着いた。つくやいきなり、
 「おはようございます!」
 と声のでかい妖怪が居た。名前を幽谷響子という。
 ああ、おはよう……と少し驚きながらも犬走椛は返事をしてやった。
 (本当に寺に妖怪がいるのだな)
 椛は幽谷響子を見てそう思った。
 寺は人間が修行をするところだ、というのを犬走椛は読み物を通して見たことがある。
 その人間が修行をするための所に、この山彦の妖怪たる幽谷響子がいるのである。
 もともと人間と妖怪とは、水と油のように相容れることのできないものだ。
 現に妖怪の山がそうである。とにかく、外から人間が入ってくるのを嫌い、それを排除するべく、自分達は役目を持っている。
 それが妖怪の山の常識であり、秩序を守るということなのだ。それがある以上、その他のことは全てが非常識となり、考えることは出来ない。

 (まぁ、幻想郷も広い……ということかね)

 椛はふと空を見た。薄暗くなりつつある夏の空である。その下を、
 「すいませーん!!」
 という、にとりの声が高らかと響いた。



 「はいはい、なんでしょう?」
 にとりの声に呼応する形で、建物から人影があらわれた。
 (ふむ……)
 何やら派手な格好をしているようで、いかにも寺僧のような雰囲気を持つ妖怪が出てきたものだ。
 犬走椛はその人物を見ては、
 (この妖力……雰囲気があるな)
 唾を飲んでいた。
 「あのう、私達は山の妖怪でして……そちらのお話を新聞や風のうわさで聞いたものでして……是非とも一つ見学をしてみたいなと……」
 「ああ、そうですか。どうぞどうぞ」
 (なるほど、あっさりしているな)
 と犬走椛は思った。相手を見るに相当な実力を持っているように感じる。
 ……もっとも、犬走椛においての実力とは単に強さを捉えているのではない。そこは犬走椛の性格というべきだろうか、実力を実直さで見ているのである。であるから、
 (この妖怪はただものではないな……)
 一種の親しみをもって、この妖怪……寅丸星を見ていたのだった。


 それから、命蓮寺を案内してもらった。
 寺内を一回りして、甲板の上へ登り。
 「本当に船なんだなぁ」
 行く場所来る場所を見て、にとりは感心したり驚いていたりしていた。
 「いやぁ、船ってのは見るのは初めてだよ。この幻想郷には話こそはあっても、そんなものはとてもないからさ」
 「私も見たことはないな」
 犬走椛は素っ気なく言った。妖怪の山で暮らしている犬走椛には、根本的に船と言うものと縁がない。実際に星蓮船命蓮寺を見ることは新鮮であったが、
 (どうにもならない以上は、興味もないな)
 なのであった。
 しかし、それでいて、にとりはというと、
 「船はいいよ。大きい船体が水を割って進むんだ……どこまでも……いつか、妖怪の山で船を走らせたいなぁ」
 などと言っている。これには犬走椛も閉口して、
 (そんなものがあっても、何の役にも立たないじゃないか。どうせあるなら、飯処か道場が欲しいところだ……)
 と、胸の中で思っている。

 そうしているうちに案内が終わったらしい。
 寺の入り口へ戻ってきた。
 「はあ!楽しかったねえ、もの字よ」
 「ああ、楽しかった」
 別に犬走椛は、寺や船のことには殆ど関心がなかった。あったとすれば、
 (あの道場のような建物が……)
 このことであった。
 そして、それを思って気づいたことがある。それは寅丸星の手であった。
 彼女の手は何かを握ったものでごつごつしていたように見えた。
 ぽつぽつと歩いている彼女の身のこなしも、中々堂に入っているものだったし、
 (もしかしたら、何か武術を嗜んでいるのではないか……)
 尚のこと、犬走椛は寅丸星に興味を持ったのだった。

 「さて、案内はこれで終わりですけれど――」
 大分、時間が経ったようだった。戻ってきた時には、もう辺りは妖怪の世界となっていた。
 「良かったら、お食事をして行きませんか?丁度、今しはや夕食が出来たそうでして」
 「えっ、あっ……」
 にとりと犬走椛は顔を見合わせたが、それも一瞬のことで、
 「じゃあ、ご馳走になります」
 と、にとりが応えた。これには犬走椛も悪い気はしていない。むしろ、何だか嬉しく思っているところがあった。
 「宜しくお願いします」
 白狼天狗らしく、丁寧に返事をした。


 そうして、寺のある部屋へ通された。
 縦に長い部屋で、もう既に魚や香の物の乗ったお膳が並べられている。
 お膳は全部で五つあった。
 一つは寅丸星の分、他二つはにとりと犬走椛の分で、後の二つは……
 「今日はですね。この寺の住職の聖さまが里の方に出掛けていて帰ってこないのですよ」
 「へえ、そうなのですか」
 「はい。お供ということで、もう一人一倫さんも一緒でして……残っているのはナズーリンという妖怪と村紗水蜜という船幽霊と私だけなのです」
 寅丸星がそう言い終えたところで、
 「おや、そちらはどなた様?」
 何者かが戸を開き、部屋へ入ってきた。
 犬走椛の見たところ、今までに見たことのないような格好をしている。
 「ええ、村紗、この方々は寺へ見学に来たのです。今日は、聖と一輪がいないものですから、せっかくと思いまして」
 「ああ、そういえばそうねえ」
 白い服が眠たそうに揺れている。にとりは珍しそうに、その村紗と呼ばれた人物を眺めていた。
 「あの……もしかして」
 「……なんでしょうか?」
 恐る恐るにとりが声をかけた。膝元にある両手が小刻みに震えている。
 「あなたはもしやこの星蓮船の船長さまでは……」
 「はい。そうですね。私は村紗水蜜、この命蓮寺……もとい星蓮船の船長ですが……」
 「は……はぁっ!」
 にとりは感極まったらしく、大きく前へ身を乗り出して、
 「私は妖怪の山の河童で河城にとりと言います!その……船にとても憧れているんです!!」
 やや興奮気味にまくし立てた。
 「船長については、本で何度も見ています!船を動かすために色々な機関を勉強しているのですよね!」
 「ええ、まぁ、そうですが」
 「それなら是非ともお話を聞かせて欲しく!!……」
 そう叫んだところで、
 (ちょっと落ち着いて)
 犬走椛がにとりの服を引っ張った。
 「…………」
 続けて、犬走椛は目でにとりに訴えかけた。
 (寅丸さんも村紗さんも驚いている)
 そう、小さく言ってやると、
 (……ごめん)
 にとりは落ち着いたらしく、正しく座り直して、
 「とにかく、後で少しお話を聞かせて頂けるとうれしいです」
 と初々しく言った。
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by metal-animal | 2011-08-26 16:01 | 東方短編小説 | Comments(0)
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