「ここは妖怪の山だ!!用がないなら帰れ!!」
「なーにー!!このあたいに向かって……って、うわあああっ」 天狗の椛の攻撃で呆気なく滝に落ち流されてしまったチルノ。 しかし、チルノの山での物語はこれで終わりではなかったのです。 サンと椛が弾幕勝負を繰り広げていた一方で始まっていたもう一つの物語……それは…… まえがき この小説は、東方幻想入り小説の番外編となります。 そちらを読んで頂いた方が色々とつながる部分がありますが、 これ単体でも楽しめるようにはなっています。 なので、良かったら本編の方もお楽しみください。 そして、この小説は二次創作です。 原作の世界観、設定を重視していますが二次創作です。 独自の解釈や二次設定があります。 どうか、それを忘れずにお願いします。 それでは、どうぞ、至らない文章ではありますが、お楽しみください。 「ふぅ、今日はこれくらいで良いわね」 ここは妖怪の山の麓の森。そこに1人の人影がありました。 その人影はせっせせっせとあちらこちらで牧や木の実を拾い集め、ふと顔を上げました。 木々は輝くように赤々と紅葉し、空には澄み渡るような青色。 こんなに美しい風景ならば、きっと川辺も一層秋色に映えている事でしょう。 そう思うと、その人影はとぼとぼと川辺の方へ歩いて行きました。そこで…… 「あれ?……あれは人?」目を大きくしてそれを見ます。 川の水面の岩の近く、そこに、小さな小さな……青白い女の子が倒れていたのです。 妖怪の仕業でしょうか……?周囲を見渡しますが、妖怪の姿も気配も何処にもありません。 あるのは、秋の気配をまとった景色だけです。 それを確認すると、人影は女の子の元へと駆け寄りました。 「この子は……妖精?」 まっ先に目に入ったのは女の子の背中にある氷の羽です。 左右に3つずつ透明な羽が付いています。 触れてみると何だか冷たい……この子は氷の妖精ね。と思うと、冷たいのをぐっと我慢して、その人影は女の子を抱きかかえると、すっとその場を後にしました。 う、うーん、チルノが目を覚ますと、そこは……何処かの家の中でした。 木造の小さな部屋。その中央に布団が敷かれ、その中に自分がいるのです。 「う、うーん。あたいは確か……」体を起こし、直前までの記憶を辿ります。 自分は人間の女と山へ来て、大きな滝を見ていたら……。 「……あれ?」 チルノはぼんやりとしました。大きな滝を見てそれからどうしたのか全く思い出せないのです。 いくら思い出そうと考えても、記憶の糸はそこでぷっつりと途切れていて、 何も思い出す事はできないのです。 仕方なく、周りをきょろきょろと見渡します。 そこは木造の建物の中。部屋にある窓からは、赤々と紅葉した木々が顔を覗かせています。 一体ここはどこなのか?いよいよ何も分からずに呆然と自分にかけられている布団だけを見つめます。すると……不意に声が聞こえました。 「あら、目を覚ましたのね。調子はどうかしら?どこか痛い所はないかしら?」 とても優しい、のんびりとした声です。 チルノはその声を発した人物、隣の部屋から戸を開けて入ってきたその人をみて「ああっ!!」と驚きの声を上げました。 「だっ、大ちゃん!?」 大ちゃん。それはチルノの親友の大妖精の事です。 しかし、その優しい声を発した人物は決して『大ちゃん』ではありません。 それは、チルノもすぐに気がつきました。 見た目こそ、可愛らしい顔つきも特徴的な淡い黄緑色のサイドテールはそっくりそのまま。 けれど、その姿は大人の女性……神社の巫女や白黒の魔法使いと同じ程に大きかったのです。 大ちゃんに似ているその女性は少し驚いた表情を見せましたが、 すぐに優しい笑顔を見せると言いました。 「うふふ、私は大ちゃんではないわ。私はあおい、青空あおいよ」 「ふえぇ……」 チルノはうろたえました。あろう事か、自分がその人を大ちゃんと間違えたのが恥ずかしくなったのです。それなのに、こんなに優しく接してくれるなんて……そう思うと青白い顔がほんのり赤みを帯びてきました。 「あらあら、怖がらせてしまったかしら……?でも安心して、私はもうただの人間だから」 そう言うと、あおいはにっこりと笑って見せました。 「何があったかは知らないけれど、あなたは川で倒れていたの。それを私がここまで運んで休ませていたのよ」 「あたいが……川で倒れて……?」 チルノは『川で倒れていた』というあおいの言葉をもとに再び自分に何があったか、その記憶の糸を辿ってみました。 「……うーん」 それでも、何も思い出す事はできませんでした。いくら思い出そうと頑張っても、肝心のそれに辿り着く事はできないのです。 そんなチルノを見て、あおいは右手をそっとチルノの頭へ置き、言いました。 「……何も思い出せないようね。よっぽど怖い事があったのでしょう。でも、大丈夫。山の上の方は怖い妖怪が沢山だけれど、ここにはそんなのはいないわ。河童みたいな、楽しい妖怪ばかりよ」 「へ、へぇ……」 あまり湖から離れないチルノには実感の無い話でした。 自分の周りには、いつも親友の大ちゃんにルーミア、リグルに橙にミスティアに……仲の良い妖精や妖怪ばかりが居たものですから。 あんな怖い妖怪を見たのも…… そう思った所で、突然、激しい頭痛が走りました。 「うう……うあぁ!!」うめき声を上げ、チルノは頭を抱えます。 「だっ、だいじょうぶ!?」あおいは咄嗟に右手をチルノの頭から離し、前へ出しました。 しかし、一瞬だけ、顔をしかめると、右手を引き、チルノをそっと抱き寄せました。 「大丈夫よ……私がいるから。どんなに怖い事や妖怪がいても、私が守ってあげるから」 あたたかい……チルノはそう思いました。 氷のように冷たい身体を持つ自分なのに――とても温かいのです。 心が、そして気持ちが暖かくなっていくと、すぅ と頭の痛みが引いていきました。 チルノが落ち着いた事を確認すると、あおいはゆっくりとチルノを布団の上に降ろし、そして言いました。 「日も暮れてきたし、今日は泊っていくと良いわ」 「えぇ……あぁ、うん……」 チルノは不思議な気持ちで小さく答えました。 人間の、あおいの温かさの余韻に浸りながら、大ちゃんを……いえ、あおいをずっと見つめていました。
by metal-animal
| 2009-09-07 17:22
| 東方短編小説
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