東方短編小説 チルノ編 『本当の最強』 第3話

この小説は二次創作です。
原作の世界観、設定を重視していますが二次創作です。
独自の解釈や二次設定があります。
どうか、それを忘れずによろしくお願いします。




「あおい……」
いつもの元気はまるでありません。消え入るような声で呼びかけました。
あおいは再びうっすらと目を開くと、小さく笑顔を浮かべて言いました。
「昨日とは全く逆になっちゃったね。ありがとう」
チルノは照れくさい気持ちになりました。でも、そんな事よりも、あおいの方が気になります。ごくんと一つ唾を飲み、最も気になっていた事を……思い切って聞いてみました。

「あおい……あれ、あたいのパーフェクトフリーズを打ち消したのはあおい……だよね?
もしかして、そのせいでこんなになっちゃったの……?」

「…………」
あおいは天井を見つめ、数秒ほど間を空けた後でチルノを見ました。
その青色の二つの目には今にもこぼれ落ちそうなほどに涙が溜まっているのが見えます。
涙の溜まった目は、宝石のように……本当にキラキラと、寂しげで悲しい光をたたえています。

(……チルノちゃん)

あおいは悲しくなりました。そして、ようやくの思いで口を開いたのです。

「チルノちゃん……私ね、昔はチルノちゃんみたいにとっても強かったの。最強……だったんだよ。神様に与えられたって力でね。あらゆる術を使いこなしていたし、身体能力も妖怪以上だったの」

「え?あおいが……?」
突然の話に戸惑いつつ、チルノは腕で涙を拭いました。

「うん、毎日毎日、戦いに明け暮れていたの。妖怪から悪さをする人間まで、向かってくるものは全て倒してきたよ。それで人々はみんな私を認めてくれた。何でもできたし、偉かったんだろうね」

「うっ……」
チルノは昨晩、自分で言った事を思い出しました。
『強ければ何でも出来るし、とっても偉い』――それが、チルノの中では絶対なのでした。
強いから、蛙は氷漬けに出来るし、湖の妖精達も全て思う通りにしてきたのです。
「でもね……」チルノが思いつめていた時、あおいが呟きました。

「でもね、それだけだったよ。確かに私は何でも出来たし、偉かったはずだけど、私には何にも残らなかった。残ったのは、他者につけた傷と術の負担でぼろぼろになった心と体だけ。そうしてね、私は人間の里を離れて、この山の麓に移ってきたの。人の世にいれば、また戦いを呼ぶ事になる。私には、もうそんな事はできなかったし、する力もなかったからね」

「で、でも、あおいは感謝されてたんでしょ!?あおいの倒したやつらだって、みんなみんな悪いやつだったんでしょ!?」

「ふふ、さっきも言ったでしょう?戦いを呼ぶって……。私の力は人々の感謝と共に憎しみや恐怖をも生み出していたの。色んな妖怪や人間が私を倒そうと躍起になって……そして倒れていく……それの繰り返し」


「でも……でもっ!」拭ったはずの目から、涙がこぼれました。
どうしてこんなにもあおいの言う最強と自分の考える最強は違っているのでしょうか……わからないのです。
――いえ、決して何も違ってはいないのです。

あおいは誰にも負けない力を持っていて、その力を使い、相手を倒してきたのです。
自分のやっている事だって、冷気の力を使って相手を倒しているだけ……。
そう……何も違わない。

だけど、自分が思い描く最強とあおいの最強は――全く違うのです。


「ごめんね。……ごめんね、チルノちゃん」
小さな小さな――本当に聞こえないような小さな声をチルノは聞きました。

「私の話でチルノちゃん……悲しませちゃったね。でも、大丈夫だよ。まだチルノちゃんは、かつての私がそうだった最強じゃないから。まだまだ大きくなれるし、その時には……私と違った最強になれるもの」

「……あおいのばか」
チルノも小さな声で返しました。
自分は子供じゃない。それが気に障ったのだと思います。確かに、あの紅白や白黒の魔法使いと比べると自分は小さいです。しかし、それでも自分は蛙を氷漬けにできるし、大ちゃんや他の妖精を言いなりにできるのです。強くて大きい――最強なのです。

――とは言ったものの、それは建前でしかありません。
本当は分らなかったのです。『本当の最強』それがどういうものなのかを――。

自分の考えていたものとは違っていたものの、あおいの最強は最終的に自分が目指している最強に間違いはありません。
たった今でさえも、相手を圧倒する力――それを最強だと思っているのですから。
だから、わからないのです。『本当の最強』が……。

それを考えるだけで……向き合うだけで……小さな胸がぎゅっと苦しくなるのです。
その気持ちを紛らわそうと、苦しみから逃れようと――そう思って、気持ちを子ども扱いされた怒りへと変換したのでした。


「あおいのばか!そんな事……あたいは分かってるんだから!!」なんたって最強なんだよ?あたいの最強は、あおいの最強よりも強いに決まってるじゃない!!」

チルノは見栄を張りました。うじうじとしている自分を奥へと封じ込めて。
それを見据えてか、あおいは「うふふ」と笑っています。

「でも、これだけは約束して。無暗に力を振りかざす事が最強じゃない……ってね」
「う、ん……ま、まぁ!あおいの言う事だから、い、いちおー、覚えておくよ!」

内心、蛙を氷漬けにする遊びをやめるつもりはありませんでした。
しかし、あおいの手前です。あおいの言葉にある苦しみを覚えたチルノにとって、
その約束は幻想郷のどんな弾幕よりも、奇麗に、そして鮮明に心に残ったのでした。
なので、どうあっても、それだけは覚えていよう……そう心に誓ったチルノでありました。
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by metal-animal | 2009-09-08 16:28 | 東方短編小説 | Comments(2)
Commented by ネイムレス at 2009-09-09 13:03 x
どうも、読ませていただきました。

子供が純粋にあこがれる最強と、大人が知ってしまった強さの代償というものの差は、どうしようも無く埋められない絶壁のような物ですね。
まあ、チルノのような良い馬鹿は、言われるまでも無く力の使い方――使い道に対して悪意なんて持たないような気がしないでもないですが。
案外、『そんなの当たり前でしょ?』なんて答えるかもしれないと言うイメージがありますね。個人的に。

それでは、本編ともども続きを楽しみにしていますね。
Commented by metal-animal at 2009-09-09 22:33
>ネイムレスさん
なるほど、そういう所もありましたね。
椛の一件や大ちゃん効果(?)あるので、ちょっと弱気になっている、という部分もあったのですが書けませんでした。これは反省です。

それはそれとして、ちょっとチルノには悪い事をしたと反省しています。
俺の願いであり、希望、その話にチルノを利用して辛い目に遭わせてしまったのは本当に悪い事です。でも、彼女だからこそ、チルノだからこそ、この話は完成したんです。
詳しくは、完結分の後のあとがきで書く予定ですが、その辺だけは本当に申し訳ない気持でいっぱいです。
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