オリジナル小説です。
興味のある方はどうぞ。 あれから1週間ほどが経った。あれ以来、高山かなたと思しき黒い影による被害はぴたりと止まっている。 濃い灰色の雲も今はもう、東の方へと流れていってしまい、春の明るい空が八霊山の上に広がっているのだ。 それはさておき…… 柿留しょうが楽しそうに話していた食事処『せいりゅう』の蕎麦は確かにおいしかった。 水の精自慢の八霊名水を使った汁は、しっかりと蕎麦にのっており、 すっきりとした喉越しと共に、透きとおるような後味を出していた。 それに食後に出てきた川岸みなもの握ったおにぎりは、特に高山はるかにとって印象に残っている。 もしも風切あやかがそれを口にしたならば、驚くと共に、 「お前にも取り得があったんだな」 そう言って川岸みなもを見直したことだろう。 「とってもおいしいですね。このおにぎりは」 その時、高山はるかは笑顔を浮かべながらそう川岸みなもへ語ったものだが、 (あれは一体何だったのだろう……?) 胸の内では先ほどでの戦いに感じていた違和感を探っていた。 高く……あの刀を構える姿は間違いなく高山かなたの風竜剣だった。しかし、 「あの黒い影が高山かなたであるはずがない……」 と、高山はるかは思っている。 高山はるかの知る彼女……高山かなたならば、何も言わず、他人を自信の刀で斬りつけるような真似は絶対にしないはずなのだ。 これについては彼女の弟子に当たる風切あやかも、きっと同じことを言うだろう。 そんな高山かなたは5年ほど前に八霊山を出てしまっている。 「剣術の腕を磨くため……他の地域を見て回るため……」 とのことである。 その高山かなたが八霊山を出て以来、手紙などの便りは一切来ていない。 であるから、今の高山かなたが、 「何処で何をしているのか……」 全く知るところではないのだ。 時というものは回れば回るほど、人と言うものを変えてしまう……つまり、 (旅先で悪に染まり、殺人剣を引っさげて八霊山に戻ってきたのではないか……) そういった考えも捨てることが出来ないのである。 高山はるかの思考の森は暗く薄暗いものとなっている。 右へ左へ……さまよい続けては日が昇る。 そして、一週間が経ち、今日へと至っているのだ。ここに至り、 (あの高山かなたを見つけ出し、話を聞かなければ始まらない……) 高山はるかはそう思い切った。
by metal-animal
| 2010-09-26 22:07
| カゼキリ風来帖
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