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東方短編小説 チルノ編 『本当の最強』 第4話

この小説は二次創作です。
原作の世界観、設定を重視していますが二次創作です。
独自の解釈や二次設定があります。
どうか、それを忘れずによろしくお願いします。




それからというもの。チルノはしばしば、あおいを尋ねて山の麓へ訪れました。
あれからすぐにあおいは元気になり、色々な事を教えてくれました。
川で魚をとること、木の実のこと、秋の神様のこと――色々です。

そんな数々の話の中でも、チルノが特に楽しみにしていたのが、あおいの昔話でした。
昔話の中のあおいは、今とは同じ人物と思えないくらいにやんちゃな少女なのでした。
口調も白黒の魔法使いのように勢いがあり、そのあおいの放つ術は紅白の巫女をはるかに凌駕するものでした。

チルノはその話を聞くと、いつも気持ちが高ぶります。
そして、外に飛び出しては、話の中のあおいを思い浮かべながら、得意のパーフェクトフリーズを格好良く放っていました。
いつしかの話もその頃には忘れ、自分もあおいのように強くなりたい――そう本気で思ったものでした。



ある日の事です。
今日は妖怪の山とは別の――近くの山へ二人でピクニックに出ていました。
その山でも、あおいの事は知られており、道中、道行く妖怪や河童達が「こんにちは」と頭を下げて挨拶をしてくれました。チルノは、自分の事ではないのに、何だか偉くなったような気がして、とても気分が良かったものでした。


そして、その帰り道、事件は起こりました。
ズゴゴゴゴ!! と間近で白黒の魔法使いの破壊光線を受けたような、
そんな地鳴りが突然響いたのです。
カァカァと驚いたカラス達が空へと逃げていきます。

「えっ、あっ、ああ!!」
立っている事の出来ないほどの大きな揺れに、二人は腰を落としてしまいました。

そうして、パラパラと小さな粒が斜面の近くに居たチルノの頭へ降ってきました。
「なんなんだよぅ……もぅ」
そう言いながら、頭や服に付いた砂埃を払っていた、その時です――

「……チルノちゃん!!!!」あおいの叫び声が響きました。

ガラガラ!!という爆音と共に大きな大きな岩石がチルノ目掛けて落ちてきたのです。
チルノは咄嗟に上を向いて、落ちてくる岩石を見ました……が、急な事と腰を落としてしまったせいで、どうにも動く事ができません。

(もうだめだ!!)

そう思って、ぎゅっと目を強く閉じ、両手で顔を守るように抱えて、その場にうずくまります。
「チルノちゃあん!!!!」
岩の爆音に負けないような、あおいの叫び声が最後に大きく聞こえました。


そして、それから無音が続きます。


何の音もしない……全くの静かです。岩石が落ちてきた感覚もありません。
チルノはぎゅっと閉まった目を恐る恐るゆっくりと開き、顔を上げました。

そこには――岩石はありませんでした。景色は先ほどのそのまま……
落ちてきたはずの岩石だけが、神隠しにあったように、その場から消えているのです。


「え?あたい、生きてるの……?」
自然である限りいくらでも再生する自分が言うのも変ですが、チルノはそう言いました。
そして、すぐに他の事を――あおいの事を思い、叫びました。

「あっ……あおいっ!!」
辺りを見渡して、あおいはすぐに見つかりました。目の前に……前のめりに倒れて。
これは……チルノはさっと駆け寄ると、あおいの体を起こしました。ぐぐっと両手に力を入れると、あおいの体を必死に持ち上げます。しかし、あおいの体に力はなく、すぐにだらりと倒れてしまいます。

この状況、チルノの目にあの日の光景が浮かび上がってきます。
――そう、野兎をパーフェクトフリーズから守った、あの時の事……。


「ねぇ!起きてよ、あおい、ねぇ!ねぇってば!!」
必死に叫びました。何度も何度も心の底から叫び続けました。
その度に、涙や鼻水が出て、あっという間にチルノの顔はぐしゃぐしゃになってしまいました。
「あおい……あおいっ!!!」
チルノの涙があおいの顔へ落ちました。

チルノの涙が、あおいが流した涙のように目から頬へ伝ったとき……うっすらと、あおいは目を開きました。
「あおいっ!?」チルノは再び呼びかけます。
その呼びかけに応えるように、あおいは小さく口を動かしました。
「けがはなかった……?どこも痛くない……?」
チルノは横に首をぶんぶんと振りました。
「全然……怪我なんてないよ……あおいが守ってくれたから」

「そう……良かった」あおいは大きく息を吐きました。
チルノの冷気が空気を冷やして、あおいの息も白く宙へ上がっては消えていきました。

「あ、あおいは大丈夫だよね!?死んじゃったりしないよね!?あたい……そんなの嫌だよ!!」
とうとう大粒の涙が氷の粒へと変化しました。
氷の粒はあおいの顔へ落ちると、あおいの体温で元の涙へと戻っていきます。
あおいは手を出して、涙を――氷の粒を手のひらで受けました。


「大丈夫……まだ大丈夫だよ……。だから……今は安心して。そんなに……泣かないで……」
そう言うと、あおいはすうっと立ち上がりました。
足元は少しふらふらしているものの、何とか立っています。

「あおい……本当に大丈夫なの……?」チルノは俯きながら聞きました。

「うん、大丈夫だよ。でも、今日は疲れちゃったから、もう帰って休まないと駄目ね。ありがとう……チルノちゃん」
あおいは笑顔で言いました。とても……とてもきれいな笑顔でした。

そして二人は山の麓のあおいの家まで一緒に歩きました。
チルノは複雑な気持ちを抱えたまま、今日の所は湖の自分の家へ戻る事にしたのでした。

また今度、あおいの元気な姿を見る為に……。
by metal-animal | 2009-09-09 18:33 | 東方短編小説 | Comments(2)
Commented by もんばんの人 at 2009-09-10 05:18 x
お疲れ様です、チルノちゃんのお話と言う事で毎回、楽しく読ませていただいています。

力って本当に難しいですよね。無ければ無いで悔しい思いをしてしまうし、
ありすぎても大事なものを見失ってしまったり、壊してしまったり、
今回のテーマに関わる部分かもしれませんが、
チルノちゃんが一つ二つ、力の意味を知って大きくなっていくと良いなーと思いつつ
次回以降も楽しみにしています
Commented by metal-animal at 2009-09-10 22:45
>もんばんさん
そうですね。東方を含めて見ても、最近は能力・・・力を用いた物語というのが流行っていて、少年漫画やラノベを見てもそういったものを用いた戦いが頻繁に繰り広げられているんですね。

そんな中で俺は、戦う事、力を使う事の意味について深く考えてしまうんです。有り余る力を振るう事は、正義を成すと同時に憎悪や恐怖を生み出したりなど、マイナスの影響を与えてしまう事もあるのですよ。

特にちょっと前に話に出しましたが、星蓮船のあの方なんて正にそんな感じだったので、あのお方のテーマが流れるとあおいの事やその背景を思い浮かべ涙が出てしまった事がありましたよ。

そして、力の意味を知って大きくなっていくチルノというのは俺の・・・この話きりの事ですけど、話の中身やメッセージ、そして単なる⑨でないチルノもあるという事を忘れないで欲しいですね。

それにしても、ちょこっと非想則天(だったかな)に触ってみたのですが、やっぱりチルノに新鮮さを感じてしまいましたよ(笑)
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